2017年8月23日水曜日

政府主導型大学再編の始まりと“戦略の醍醐味”(2)

さて、今回は、前回の最後に挙げた「①それが(国大協も書くような)カリフォルニア州立大学システムやフランスの大学共同体のようなものを目指すものなのか、それともそちらは表看板で本当のモデルは別にあるのか」という問題について、ごく簡単にではありますが、書いてみようと思います。

国大協の「高等教育における国立大学の将来像(中間まとめ)」は、国立大学の経営形態の在り方について「アメリカのカリフォルニア大学システムやフランスの複数大学による連合体の成果や課題を検証し、それらを参考にしながら、我が国の状況に合った様々な経営形態の在り方を研究する必要がある」(P31)としています。前者、カリフォルニア州の「カリフォルニア大学」「カリフォルニア州立大学」「コミュニティ・カレッジ」の3層構造とバークレー校、ロサンゼルス校等の10大学から成る「カリフォルニア大学システム」については、あまりにも有名なので省略します。

後者、フランスの「複数大学による連合体」ですが、例えば連携・連合の代表的な枠組みである「PRES」(研究・教育拠点)の場合、2006年に制度化、「地理的に近接する高等教育・研究機関の合意によって設立」され(大場、2014)1 、その目的は「効率(efficacité)、認知度(visibilité)、魅力(attractivité)の向上とされる。PRES の構想発表資料(MEN, 2006)16において高等教育省は、激しい国際競争の下で、高等教育機関が臨界規模(taille critique)を達成することによって高い認知度が得られ、それが魅力をもたらすであろうことを強調している。すなわち,PRES の目的の中に協働による効率向上は含まれているものの、規模拡大によって認知度を高めること、そしてその結果としてフランスの大学の魅力を高めることが主たる目的であることが見て取れる」(同)とされています。

特徴としては、①すべての高等教育機関は、「PRES」及び「連盟体」、「統合」の3つの形態のいずれかを選ぶよう求められた、②高等教育機関だけでなく、研究機関、さらには連携機関として地方自治体や企業も参加できる、③構成高等教育機関だけでなく、「PRES」としても学位を出すことができる等を挙げることができます(「PRES」は2013年、政権交代に伴い見直され、「COMUE」(大学・高等教育機関共同体)という新たな制度が導入されました。「PRES」及び「COMUE」とその周辺情報については広島大学の大場淳先生が複数の論文を書かれているので、詳細はそちらをご参照ください)。

カリフォルニア大学システムが州政府の特定の政策目的への奉仕のために作られたものではない(むしろ逆)のに対して、「PRES」の場合、一定の政策目的に基づき他の2つと併せた3つの選択肢からいずれかを選び参加することを強制、一定の地理的領域に基づく、自治体・企業との連携・協力を制度的に促進する、構成高等教育機関の独自性と学位授与権を始めとする「PRES」としての実体性も持っている等、現在の日本の“大学改革”の文脈に適合しているようにも思えます。

ただし、「PRES」の場合、上でも引用したように「目的の中に協働による効率向上は含まれているものの、規模拡大によって認知度を高めること、そしてその結果としてフランスの大学の魅力を高めることが主たる目的」であり、その点で現在の日本の“大学改革”の一部としての国公私立を超えた大学再編の方向性、特に重大な問題となるであろう「大学セクターの縮小」(専門職大学は除く)、「学士課程入学定員の削減」、「国家の諸活動のうち経済面への直接的効果を基準とした専門分野構成の再編」等との関連性はあまり強くはありません。

その点に関しては、実はすぐ隣の韓国にまさにそのものの先行事例が存在しています。

韓国と日本の高等教育政策を比べると同じ東アジア地域にあることや構造的類似性・政策全般の類似性に起因するものか、非常によく似た傾向を見出すことができます。

いわゆる大学の“構造改革”についても、2004年の「大学構造改革方案」以降、国立大学の縮小、大学の統廃合推進、種別化、定員削減等に着手し、特に朴前政権下では、政府による強力な指導の下、6段階の大学評価に基づく公的資金の配分や入学定員の強制的削減、最低評価を2回受けた場合“退出”を促す等の措置が行われました。この朴前政権による入学定員削減や大学の“退出”は、その第1期期間(2014年~2016年)で予定した約4万人を上回る約4万4千人の入学定員削減を達成しました。また、評価に対応するための個別大学の取り組みは、結果として医系や理工系の充実、人社系・芸術系等の縮小につながり、中には深刻な学内の混乱や対立を生んだ例もあるようです。

この韓国の事例は、「政府による主導下」での「政府の基準に基づく評価」による公的資金配分や定員削減、さらに、その過程で政府が望むような大学のガバナンスの在り方や起業・グローバル化教育等への取り組み、専門分野構成の再編、統廃合などへと各大学を誘導することが可能になるという点で、ここ数年の高等教育政策に、(「政策枠組み」という点でも、具体的な「政策内容」という点でも)非常に親和性が高いように思われます。

ただ、この問題に関して、韓国と日本には一つ大きな違いが存在しています。韓国の大学入学定員は朴前政権がこの政策に着手する直前の2013年で約56万人、それに対して“学齢人口”が2013年の約63万人から2023年には約40万人と急減、韓国の入学定員全体を削減しない限り、例え大学進学率が100%になっても2023年には約16万人の欠員が発生するという状況にありました。それに対して日本の場合、最近各所で見かけますが、文科省の試算では大学進学率が現状より約10%上昇すれば、日本の大学全体としては現在の入学定員が維持可能です。

この点を割り引いて考えると、来るべき「政府主導型大学再編」はフランス型大学連合を表看板に、韓国の大学再編をマイルドにしたものを裏の看板として実行に移されることになるのかもしれません。

(菊池 芳明)

1 大場淳(2014),フランスにおける大学の連携と統合の推進 ─研究・高等教育拠点(PRES)を中心として─,『大学の多様化と機能別分化』広島大学高等教育研究開発センター


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