2020年6月17日水曜日

新型コロナウイルス感染症と関連した今後の勤務態勢・職場環境等に関する要求

 6月12日、政府による緊急事態宣言解除と神奈川県知事の大学への休業要請解除を受けて、当局側に対し下記の通り「新型コロナウイルス感染症と関連した今後の勤務態勢・職場環境等に関する要求」を提出しました。

2020年6月12日
公立大学法人 横浜市立大学
理事長 二見 良之 様
横浜市立大学職員労働組合(横浜市従大学支部)
委員長 三井 秀昭

新型コロナウイルス感染症と関連した今後の勤務態勢・職場環境等に関する要求

市民から期待され信頼される大学教育と運営の確立に向け、日頃の取り組みへのご尽力に敬意を表します。

さて、今般の新型コロナウイルス感染症に関しては、政府の緊急事態宣言が解除、これに伴い神奈川県知事の大学への休業要請も解除され、本学においても新型コロナウイルス関連第33報(6月4日)において活動基準の適用レベル緩和、原則として在宅勤務から在宅勤務「推奨」へと、従前の出勤を基本とする勤務態勢に徐々に戻ろうとしています。

これを踏まえ、下記の通り今後の勤務態勢・職場環境等について要求します。なお、下記項目の中には既に要求を行ったものの、協議や実際の対応が行われていないものも含みます。


1. 教職員・学生の心身の健康、生命を守るための適切な措置の実施

国、神奈川県、関連学会等の各種ガイドライン、チェックリストなどを参考に、例えば職員の職場における物理的距離を確保すること、教職員・学生の健康状態を把握することなど教職員・学生のキャンパスにおける心身の健康、生命を守るための適切な措置を講ずること。また、今後、第2波、第3波の再流行も懸念されるところであり、今回対応が泥縄となり確保が困難であった消毒液等の物資、機材について、その流通が回復している間に必要量の確保に努めること。

2. 教職員の育児、介護等の負担に関する適切な配慮

緊急事態宣言は解除されたものの、幼稚園、小学校、保育園、福祉施設等に関しては、新型コロナウイルス感染拡大前と同じ状態での利用が出来ない施設も多い。家庭において育児、介護の負担のある職員については、個別の事情を考慮した勤務形態、業務配分とすること。

3.在宅勤務に伴う教職員の業務準備、業務実施の費用負担に対する補償

今回の原則在宅勤務への移行は、組合ニュース(公開版)(4月9日)で指摘したように、4月8日に突然「明日から原則在宅勤務」という指示のみが出されて始まった泥縄式のものであり、後に(組合の指摘もあってか)決定した「大学のPCを自宅に持ち帰って業務に使用することも可」という措置を除けば、そのためのPCや周辺機器の購入、通信費、在宅勤務による光熱水費の増等についてすべて各教職員の負担とされたままである。業務命令に基づく業務を遂行するための費用は雇用者側が負担するのは当然であり、この点に関し制度面での改善並びにこれまでの各教職員の私費による負担分について補償を行うよう求める。

4.有期雇用職員、アルバイト職員等の雇用の維持

今回の緊急事態宣言、またその前段階での「自粛」に伴う経済面での影響は現在進行中の事態でもあり、その全体像を明らかにすることは困難だが、既に一部で解雇などの問題が発生している。緊急事態宣言に基づく業務縮小の間、アルバイト等についても解雇を行わず法定の休業手当の支払いに努めた経営姿勢について評価するとともに、今後も有期雇用職員、アルバイト職員等も含め教職員の雇用を維持するよう求める。

5.給与の維持

同様に安易な教職員給与の引き下げ等を行わないよう求める。本学の財政については、例えば2019年7月29日付の「本学の財務・人件費の状況と今後の職員の処遇に関する質問書」とそれへの回答に見られるように、組合が懸念し自制を求めてきたにもかかわらず近年経営方針として支出を増大させる拡大路線を取り続けてきたものであり、それに伴う財政状況の悪化については一般の教職員が責任を負うべきものではない。今般の新型コロナウイルスに関しても、日本の地方財政制度、大学法人の会計制度の仕組み等により、すでに例年並みの資金が確保されており、今回の新型コロナウイルス感染症を理由として安易な教職員給与の引き下げ等を行う環境にはない。

6.就業規則、規程の適切な改正

在宅勤務、時差出勤については、既に組合より就業規則、規程等の根拠が無いか疑義のある状態であることを指摘し、当局側もその点については対応を約束したものの、未だに改正がなされていない。改めて適切な改正を行うよう求める。

以上

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「教学マネジメント」とIR ―「教学マネジメント指針」と 大学教育学会第42回大会 ラウンドテーブル20「教学マネジメントとIRをつなぐ組織体制づくりを考える」から―

 なぜか今頃になって「教学マネジメント指針」の冊子が回ってきたことと、先日、オンラインで開催された大学教育学会第42回大会で教学マネジメントとIRに関連したラウンドテーブルに参加したので、備忘録も兼ねて感想のようなものを記しておこうと思います。といっても色々と余裕を欠いている状態のため箇条書き&説明抜きになります。
  • 「教学マネジメント指針」は「大学の管理層」の「管理運営」のためという、もともと限定された観点から作成されたものだが、そういった限定的な性格のものであるという点は、大学側に適切に認識されているだろうか?そうでない場合、教育においても上からの「管理」という側面のみが突出することになりかねない。
  • 測りやすいものを測っている(量的指標、その更に一部)ことなど、「測定の限界」は管理層に認識されているだろうか?また「測定」と「評価」の違いについては?
  • 選択された諸指標への機械的な最適化が進みかねない力学は認識されているだろうか?(特に国公立大学の法人評価)
  • プロフェッショナルでない経営者とプロフェッショナル文化、特に「プロフェッショナル倫理」(所属組織での利害関係等を超える専門家としての倫理)の脆弱な社会における専門家の組み合わせという日本独特の問題。
  • 指針を作成した側は、「評価」や「測定」の問題点についてどの程度認識していたのか?

    cf. ジェリー・Z・ミュラー 「測りすぎ ―なぜパフォーマンス評価は失敗するのか?」みすず書房
    「ジェリー・ミュラーさんの『測りすぎ』という本,今,すごくはやって,皆さん読んでいますけれど,この委員会に出ていると,これをみんなもっと読んだ方がいいのではないかという気持ちにとてもさせられます」教学マネジメント特別委員会(第7回)
    cf. 政策評価論の研究者からは、以前からNPM※型改革における評価やその基本的な手法であるパフォーマンス・メジャーメントの問題点(この点は教学マネジメントの諸指標についても同様)が指摘されている。
    ※NPM(New Public Management):民間企業における経営手法などを公共部門に適用することで効率化・活性化を図ろうとする手法。日本では国立大学、公立大学に対しても適用された(大学法人化)
  • 今回の新型コロナ感染症拡大に伴う一連の事態は、政策的に“推奨”されてきた日本のIRの在り方の特徴―平時の、安定した状況を前提とする「中期計画」等の定型的な枠組みにおける「PDCA」の「測定」に最適化したものーを明らかにするとともに、それではカバーできない様々な問題を浮き彫りにした。本来は、質的なものも含めたより広範なdata、informationに基づくintelligenceが必要とされているのではないか。
  • 「指針の基本的な性格を踏まえた運用」「測定の限界を踏まえた抑制的運用」を行うと共に「学生、教員のための、管理運営以外の視点に基づく基準」の創造を行うことが必要ではないか。
  • また、管理層、IRerの「プロフェッショナル化」も必要ではないか(ただし「プロフェッショナル化」とは単なる専業化ではない。特に「プロフェッショナル倫理」を内面化していない専門家は「プロフェッショナル」と呼んでいいのか疑問であるだけでなく、組織や社会を危険にさらす懸念がある)。
(菊池 芳明)
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