2019年6月13日木曜日

八景キャンパス36協定(4月~6月)について(解説)

以前にも何度かこの組合ニュースで36協定について取り上げたことがありましたが、この4月からのそれは政府の「働き方改革」の一環である改正労働基準法等を受けたもので、これまでとは幾つかの点で違ったものとなっています。各部署での簡単な説明も行われている模様ですが、教員組合と共にその内容を巡って当局側と交渉を行った当事者として、以下、その内容と背景について多少の解説を行っておこうと思います。

① 4月からの八景における36協定では、その第4条で「延長することができる勤務時間数」(残業時間数)について「1日につき4時間」「1か月につき45時間以内」「1年につき360時間以内」としています。この部分については基本的にこれまでと同様で変わりはありません(1日あたり、1か月あたり、1年あたりの各数値はすべて守る必要があります。たとえば1か月45時間以内、1年360時間以内であったとしても、ある1日に6時間残業すればアウトです。念のため)。

② 第2に、「臨時的な」「特別事情」がある場合に限って(従ってその業務が「恒常的」になっている場合は該当しません)、第4条の限度を超えて時間外労働を延長することを第7条で可能としています。これも条項としては以前よりあったものですが、これまでと違っているのは1か月あたりの上限時間が「60時間」から今回「80時間」まで、1年の上限時間が「540時間」から「720時間」までに変わっている点です。

これは、単純に時間が伸びたということではなく、今回の制度改正で限度時間(第4条の「1日につき4時間」「1か月につき45時間以内」「1年につき360時間以内」のこと)を超えた残業について、これまでは含まれていなかった「休日出勤分」も含めるとされたことによる影響があります。

実は当初、当局側はこの限度時間を超えた残業のうち1か月あたりについて「99時間」としたいとしていました。法令上は今回改正で「時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満」とされたので、つまり、この法令上の上限ぎりぎりに限度時間を設定したいということです。これに対して教員組合、職員組合の両組合は「法令に違反しないとはいえ、いわゆる『過労死ライン』を超える上限時間設定は労働組合として認められない」、「そもそもこれまで60時間だったものを99時間にしたいというのは、これまで平日に60時間の超勤を行っていた職員が実は月4日間以上の休日出勤も行っており、かつ、それをそのまま今後も続けるという前提であるが、①その点について実態データが示されていない、②仮にこれまでそのような労働実態があったとしても働き方改革を謳って昨秋以降、超勤時間の縮減を図っているのだから、この機に改めるべき」等の理由で一致して反対の意向を表明しました。これを受けて当局側はまず1か月の上限時間を「90時間」に引き下げましたが、それでも両組合が賛同しなかったため最終的には「月80時間」とすることで決着しました。

この数字は当局側と組合側の主張の妥協の産物といえますが、その時点で既に新年度が目前であり、これ以上の交渉は物理的に困難であったことから暫定的に3か月と期間を切った協定とすることになりました。4月~6月の残業の実態も踏まえ、7月以降の協定の在り方について再度両者で話し合うことになっています。因みに、組合員が少数にとどまるなどの理由で両組合の影響力が小さいその他のキャンパスにおいては、この1か月あたりの残業上限が当局側の1度目の譲歩による時間数90時間となっており、八景キャンパスよりも10時間長くなっています。

加えて、今回の法令改正では「時間外労働+休日労働」の数字が「2か月平均」、「3か月平均」、「4か月平均」、「5か月平均」、「6か月平均」のいずれの計算においても1か月80時間以内にならなければならない(例えばある月に90時間残業した場合、次の月の残業は70時間以下にしなければなりません)、1か月45時間以上の残業が許されるのは年6回まで、という2つの制約条件も課されています。これらに違反した場合、今後は6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります(もちろん、働かされる労働者がではなく、働かせる方が、です)。

③ また、この限度時間を超えた「臨時的な」「特別事情」による「1か月あたり80時間」、「1年あたり720時間」までの残業については、もともと「労使の協議を経て」という条件のもとに実際に残業を行うことが認められるものであり、その点はこれまでの36協定にも明記されていましたが、実際には完全に空文化していて、これまでも組合はその点について遵守するよう求め続けてきました。今回、この点について当局側が改善の姿勢を示し、「労使の協議を経て」という条件の実際の運用の在り方についてまで初めて労使で確認し、実効性を担保することとなりました。

④ もう一つ、限度時間を超えた残業に関して、厚労省の「指針」では「限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置」として、「(1) 医師による面接指導、(2)深夜業の回数制限、(3)終業から始業までの休息時間の確保(勤務間インターバル)、(4)代償休日・特別な休暇の付与、(5)健康診断、(6)連続休暇の取得、(7)心とからだの相談窓口の設置、(8)配置転換、(9)産業医等による助言・指導や保健指導」の中から協定することが望ましいとしています(「36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針」第8条)。今回の6月までの36協定では、上記の通り充分な交渉時間を確保できなかったため、この点は協定に盛り込まれていませんが、職員組合としては7月以降の協定にこの点での対応を盛り込むよう、要求しているところです。

今回の協定のポイントとしては以上のようなものですが、以下、本来説明は要らないはず、しかし実際には多くの人が知らない点と、あまり広くは認識されていないものの本学の法人化以降の現実に照らすと大事な点について触れておきます。

第一に、そもそも労働基準法は原則として1週間40時間、1日8時間を超える労働を禁止しています(「第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。」)本来、40時間を超える労働は例外的にしか認められていないものです。その「例外」としての残業を可能とする36協定も単なる残業代を定めるものではなく、残業を可能な限り抑止するために様々な制約条件が課されています。

それらの淵源にあるのは憲法第25条の「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」ですが、そのような理念的な話に興味が無いとしても、長時間労働は自分自身の健康上のリスク、言い換えれば人生のリスクそのものであるという点は覚えておいた方が良いでしょう。

上記の厚労省「労働基準法第三十六条第一項の協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項等に関する指針」でも「使用者は、『脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について』(平成13年12月12日付け基発第1063号厚生労働省労働基準局長通達)において1週間当たり40時間を超える労働時間が1箇月においておおむね45時間を超えて長くなるほど、業務と脳・心臓疾患の発症との関連性が徐々に強まると評価できるとされていること並びに発症前1箇月間におおむね100時間又は発症前2箇月間から6箇月間までにおいて1箇月あたりおおむね80時間を超える場合には業務と脳・心臓疾患の発症との関連性が強いと評価できるとされていることに留意しなければならない」としています。これは、1ヶ月単独での100時間あるいは平均月80時間を超える残業は脳・心臓疾患を引き起こす可能性が高いこと、しかし、100時間以下でも実は月45時間を超える残業は時間が長くなるほど脳・心臓疾患のリスクを高める(月100時間以下や平均80時間以下なら大丈夫という事ではない)ことを意味しています。

第二に、本学で法人化以降多発している鬱や適応障害といった精神面での障害に関しては、実は危険ラインは脳・心臓疾患の場合よりはるかに低くなっています。

厚労省の「過労死等の労災補償状況」の最新版(平成29年度)を見ると、労災補償対象となった事例の残業時間の状況は、全506件のうち残業時間が20時間未満のケースが最も多く75件(14.8%)、40時間未満のケースは合計110件(21.7%)、さらに60時間未満で見ると合計145件(28.7%)で1日当たり残業時間が1~3時間程度でも何らかの精神障害を可能性は無視できないレベルになります。

今回の法令改正と新たな36協定の締結、4月以降の各職場での実態の把握を目的に学習会ないし職場集会の開催も検討していますが、現在のところ時期は未定です。組合では、職場での実態等についての情報を求めています。情報は ycu.staff.union(アット)gmail.com までお寄せください。

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