2017年2月23日木曜日

住居手当ほか固有常勤職員に関する給与体系変更提案:第3報 当局側提案の裏付けとなるデータの提示とその問題点

2月17日夜、この問題での第3回の交渉を行いました。

内容としては、2回に分けて行われた当局側提案の根拠、裏付けとなる各種データの提示等で、1月20日の提案からちょうど4週間が経過しています。

当局側の説明内容は、以下の通りです。

  1. 勤勉手当のA評価の成績率(支給額の上乗せ率)・分布率(A評価者の割合)の拡充について、その原資は「上位昇給の廃止による680万円」+「市での住居手当の上乗せに追随しないことによる原資+勤勉手当の算出基礎からの扶養手当の除外による計1820万円」で総額2500万円、 それに対して勤勉手当のA評価の分布率・成績率の拡充により必要となる年間の総額が2410万円で、差し引き90万円の残。
  2. 平成29年度から平成34年度までの次期中期計画の収支計画の概要について。第3期における業務費は、第1期、第2期に引き続き上昇、第2期の約3388億に対して約4152億に。業務費に占める職員人件費は、第1期の33.6%、第2期の33.0%から34.9%に上昇の見通し。収支計画としては、6年間で約9億3千万の赤字でこれを目的積立金の取り崩しで穴埋めする計画。
  3. 制度見直しにより、モデルケースで見直し前と賃金差はどうなるかについては、単純な比較は困難、業績による評価の差がある等の理由によりモデルケースの提示は困難。
  4. 来年度検討する人事考課制度についての考え方としては、より職員のモチベーションを上げる仕組み、大学・病院に適した制度に見直す。
  5. 固有常勤事務職員のうちの1級在職者の数は、29年1月1日時点で63人、看護・医療技術職も含めた固有常勤職員全体では849人。

各項目に対する組合の見解等は以下の通りです。

  1. 見直しによって引かれる額と勤勉手当A評価者に回される額を比較すると、固有常勤事務職員全体として引かれる予定額の方が90万円多いことが判りました。ただし、この程度の差額は簡単にプラスマイナスゼロに調整できます。今後、譲歩の体裁を整えるために使える、いわば“見せ餌”として置いてあるものかもしれません。いずれにせよ、前回の組合ニュースで指摘したように今回の提案の最大のポイントは法人化時の「大学固有職員の処遇は横浜市職員に準じる」という合意を変更することにあると考えられ、そのためには今回はむしろ変更自体の度合いは小さくした方が交渉戦術上望ましいでしょうから、プラスマイナスゼロでも少額のマイナス(固有常勤事務職員全体にとって)でも大きな差は無いと言えるでしょう。また、前回も書いたように、市に準じた住居手当の引き上げの原資があるのであれば、当然ながら、それはまず住居手当に回すべきです。
  2. 相変わらず法人の規模の拡大を続けるようです。大学としての教育研究活動にせよ、大学付属病院としての医療活動にせよ、本質的に“儲かる”ものではなく、一定上の質を維持しつつ規模を拡大すればするほど赤字が拡大する可能性は大きくなります。規模の拡大を続けつつそれを避けようとすれば、方法としては「国内のマンモス私学のようにST比(学生・教員比)を現在の教員1人当たり10人程度から30人以上に増やす」か「アメリカの大学のように年間授業料を100万円単位にする」、あるいは両者を組み合わせる位しかありません。また、職員人件費については、圧倒的多数である看護・医療技術職員と合算しての数字では、固有常勤事務職員を巡る状況は把握できず、固有常勤事務職員のみの数字を示すよう求めましたが、「算出困難」という回答で(本当に?)、やむを得ず保健管理センターの医療技術職等も含めた「大学部門」の数字を示すよう求め、こちらについては了解を得て次回に提示されることになりました。
  3. モデルケース、モデル賃金の算出は困難という主張に対しては、それを計算しないで人件費が増だの、どう変えたらいいのか等の話ができるわけが無く、最終的に固有常勤職員の平均年齢の職員で「現在の制度では上位昇給に当たり、当局側提案の新制度では勤勉手当がA評価になる場合の差額」「現在の制度では上位昇給に当たり、当局側提案の新制度では勤勉手当がB評価の場合の差額」さらに「横浜市と同様の昇給の運用を行った場合と当局側提案内容での運用を行った場合の差額」という3通りでの数値を次回提示させることになりました。
  4. これについては予想通りあまり実のあるものは出てきませんでしたが、素直に読めば「今回の給与制度の変更に合わせて人事考課制度を設計する」、言い換えると1月20日の説明通り「大学・病院に適した」が「(職員人件費に関する)財政的制約を前提とした」、「より職員のモチベーションを上げる仕組」が「職員全員ではなく、勤勉手当評価の高い職員への抑制する人件費の優先的配分を行う」という事になるでしょう。
  5. 「1級在職者」というのは組合ニュースで取り上げるのは初めてかと思いますが、要するに年齢・在職年数が低く、月例給の上位昇給の対象外にされている職員のことです。前回の交渉で、月例給の引き上げより勤勉手当の引き上げの方がインセンティブになるという主張の根拠として、職員のプロジェクトチームの検討で上位昇給に重きを置く在り方に対して「報われていない」と不満が出たから、という主張をしていましたが、今回の数字で明らかになったのは「そもそも上位昇給の対象外とされる1級在職者が多数いるのだから上位昇給では報われないというのは現時点では当然で(昨年度、一昨年度の時点ではさらに多いはず)、そして数年待てばそれらの職員は上位昇給の対象になる」ということです(固有常勤事務職員の平均年齢は20代かせいぜい30代初めの筈ですので)。この点を指摘すると、当局側は「だからこそ、このままでは財政負担が大変で変える必要がある」という予想外の主張を返してきました。月例給の上位昇給の対象外の職員が多数いる現状で「上位昇給では報われない」という不満を制度を変える根拠として持ち出しながら、「実は皆が上位昇給の対象になっては人件費上困る」と言っているわけで、これではその「プロジェクトチーム」の検討は本来の意図とは逆の方向につまみ食いされたことになります。また、この当局側発言自体が制度変更の目的が固有職員の人件費抑制にあることを明確に裏付けています。

さて、当局側が提示してきた各種データは以上のようなもので、既述のように幾つかのものに関しては修正、ないし追加して改めてデータの提示を行うよう求め了解を得ました。また、更にこれも前回の組合ニュースで指摘したように4月から始まる次期中期計画での市よりの運営交付金は大幅に増額されており、それはなぜなのか、具体的にどのような費目が増額されているのかについてもデータの提示を求め了解させました。

それ以外では、組合が繰り返し指摘している「本当に財政難だというのであれば次期中期の拡大路線は何か?そんなに財政状態が悪いのであれば、そもそも拡大路線を取るべきではないのでは」という指摘に関して、当局側のロジックが次第に明らかになってきました。

この問題についての当局側のやり方ですが、財政状態に関する認識がまず全体の前提としてあるのではなく、それと新たな組織の設置等の拡大路線については切り離したうえで組織の新増設等をまず決定、その後、財政上の辻褄合わせを行うという方法、発想がとられているのではないかという印象が回を重ねるごとに強くなってきました。

(1)組合が「財政難」、言い換えれば「金が無い」という当局側主張に沿って「金が無いのであれば、金がさらに出ていくような組織の新増設等の拡大路線は合理的でない」という、全体を資金の観点で考えるのに対して、(2)当局側は、自身が考える「社会的ニーズに対応した取り組み」については、法人財務の状況を念頭に置いてその範囲内で計画するのではなくコスト面は棚上げして「社会的ニーズに対応した取り組み」という独立項目でまず計画、決定、その後、他の項目の費用を削ることにより全体としての財政上の辻褄を合わせればいいと考えているようなので、その意味では話がかみ合うわけがありません。

(1)の組合の観点に立てば、仮に「社会的ニーズ」が本当にあるとしても、財政が脆弱、将来の見通しも楽観できないのであれば、その経費は全体の資源配分の大まかな方向性の枠内、スクラップ・アンド・ビルド、あるいは吸収可能な経費微増という範囲内で検討することになるでしょうし、あるいは私学ではなく公立大学だという前提を考慮しても、「社会的ニーズ」に対応した増分は設置者が交付金増で支え続けるという合意が強固に存在していることが前提だと考えます。「いくらかかるか分からないが、まず、これをやる」「ついで、他の部分を削って何とかする」という手法は最終的に「何とかなる」保証などありませんし、中長期的な観点からはなおのことです。実際、本学の法人化以降の歩みは、拡大路線が経済的にはペイするどころか一層の財政上の窮地を招くことを示しています。まして、労働組合の立場からは、後出しで「何とか辻褄を合わせる」ための削減項目として職員人件費を俎上に挙げることは容認できません。職員の質が大学経営上非常に重大な要素だという認識が国内大学においてもようやく定着しつつあり、全員任期制という無理のある制度もようやく撤廃したというのに、これでは本学は「公立大学の弱点は事務局」という俗論を裏打ちする方向へと一直線という事にもなりかねません。

また、当局側の主張する「社会的ニーズ」が、「流行」や「文科省推奨」以上の、自前のきちんとした検討を経たものなのかも心もとないところです(ここ数十年の「流行」や「文科省推奨」の少なからざる部分が、今となっては「やらなければよかった」になっていることを考えればなおのこと)。

それに、繰り返しますが、大学だの大学付属病院だのというものは本質的に“儲かる”ものではありません。特区制度で株式会社立大学の設置が認められるようになったのが2003年度、本質的に“儲かる”のであれば、溢れかえる内部留保の投資先に悩む国内大企業が先を争って参入してきてもおかしくないはずです。ですが、実際には株式会社立大学は減少を続け消滅寸前です。

さて、1月20日に第1の提案があり、3回目でようやく当局側の提案とその根拠の全容が伺えるようになってきました。しかし、組合側が完全に当局側の提案とその根拠となる情報を受け取るまでに要した時間は既に1か月以上、しかも根拠となる各種データはまだ不足しており第4回が既に予定されています。当局側が指定してきた回答期限は3月10日で最早2週間しかありません。次回で当局側提案とその根拠の全体がようやく全て明らかになるとしても、それを受けての組合の検討と交渉のための期間は1週間から10日程度、やはりこれを真っ当な交渉と呼ぶことは無理があり過ぎると言えるでしょう

にほんブログ村 教育ブログ 大学教育へ

2017年2月17日金曜日

住居手当ほか固有常勤職員に関する給与体系変更提案:第2報 法人化時の合意変更に当たると認める その他 多数の問題点


前回1月23日付組合ニュース以降の続報です。

前回の組合ニュースでは、「今年度の横浜市における住居手当の1600円の引き上げについて、固有常勤職員については追随しない(市派遣職員については実施)」だけでなく、4月からの「月例給の上位昇給の廃止」、「勤勉手当の算出基礎からの扶養手当の除外」という3つの措置を併せて、それによって浮いた資金を勤勉手当の成績率・分布率の拡充に充てるという給与制度の大きな変更を、しかも実施のわずか2か月前に突然提案してきたことをお伝えしました。今回はその続報になります。

1月20日に続いて2月6日、再度交渉を行いました。


Ⅰ.勤勉手当の具体的変更内容について

前回示されなかった勤勉手当の具体的変更内容ですが、A,B,Cの3段階評価はそのままとして、

  1. A評価となる職員の割合を現在の5%から最大で20%に拡大、B評価となる職員の割合は現在の90%から最大80%に減、C評価は現在の5%を絶対評価によるものとして割合は定めない。
  2. A評価になった職員への給付額の上乗せを現在の+5%から+15%に増、C評価の-5%はそのまま。


と変更するというものでした。

この当局側の追加提案を受けて、組合からは、まず、なぜこのような法人化時の合意に反する給与制度の大きな変更を、しかも昨年の8月に住居手当の取り扱いについて2年近い交渉の末、28年度は例外的に市に準じないことでようやく合意した直後、交渉期間もほとんど取れない年度末のタイミングで言い出したのかを改めて質しました。これに対しては、①「法人の財務状況が初めて完全な赤字となった昨年度以上に厳しく、積立金を取り崩しても昨年度以上の赤字になりそうだから」として、法人財務の急速な悪化に対応するためのものであるとの説明がありました。

加えて、4月から始まる次期中期計画について、②「このままでは人件費増による収益圧迫が現実のものになる」こと、③「そのような制約条件の中で、市が勤勉手当について変更するということがあり、財政状況の悪化という制約条件の中で、職員のインセンティブを維持するためには月例給の上位昇給より勤勉手当の加算で対応する方が望ましいと考えた」ことも併せて理由として挙げました。

これらのうち、③について、なぜ月例給(月給)の引き上げではインセンティブにならず、勤勉手当(賞与)の引き上げがインセンティブになるのか、意味不明であるとしてさらに説明を求めたところ、現場の職員を選抜したプロジェクトチームの2年間かけた検討で、市に準じた上位昇給にウェイトがかかり勤勉手当のウェイトの低い評価には不満が出て、勤勉手当の方が、このような業績を上げたからということで分かり易い、という組合側には説得力の感じられない追加説明がありました。

以上が、まず1月20日の交渉では明らかにされなかった勤勉手当の具体的変更内容に関する追加提案内容になります。


Ⅱ.法人化時合意の変更提案か?

続いて、同席していた、法人化時の「法人固有職員の処遇は市職員に準じる」という合意における当事者の一方である横浜市従本部の執行委員から「法人化時の市に準じるという合意ではこれ以上は財政が厳しい、変えるという提案か?」という確認があり、当局側を代表する人事課長から「そういう理解で結構」という回答がありました。これによって、今回の提案が当局側からの法人化時合意の変更を意図するものであること、法人固有職員の処遇を市職員とは別のものとしようとしていることが完全に明確になりました。

さらに横浜市従本部執行委員から「このような大きな問題は、過去の労使合意も踏まえ慎重に議論すべきもので、1月末提案、4月1日から実施では充分な議論などできない」との指摘があり、これに対しては「法人発足時に固有職員の処遇は市職員に準じるという合意があったのは承知しているが、あくまでの発足時の合意だ。地方独立行政法人法の趣旨に基づき、法人の給与は法人業務実績と社会一般の情勢に基づき決めることになっている。議論の期間については組合側と誠実に対話したいと思っている。2か月の中で精力的に協議したい」という答えでした。なお、この日の勤勉手当の具体的変更内容を記した追加提案文書の末尾には、組合側への回答期限として3月10日(金)を指定しています。実際には1月20日を起点にカウントしても交渉期間は2か月もありませんし、提案内容自体が出そろったのは1月27日、さらに交渉のために必要な各種データもまだほとんど示されていませんので、実質的な交渉期間は1か月もありません。


Ⅲ.その他

その他では、組合への提案文書における提案理由が「法人に相応しい人事給与制度」・「意欲・能力・実績を反映するメリハリのある人事給与制度とする」ことであり、口頭で繰り返している「法人財政の悪化」「固有常勤職員の年齢構成の極端な偏りへの対応の困難性」が含まれていない点について、「『制約条件』として財政状況の悪化と年齢構成の偏りを言っているにもかかわらず、提案文書では、法人に相応しい、意欲・能力・実績を反映する制度としか書いておらず、これはミスリーディングだ。これだけではまるで固有職員の給与が上がるようにも取れる。財政難への対応のための変更というなら正直にそう書くべきだ」と指摘しました。当局側の回答は「『大学・病院の実態に相応しい人事給与制度』という部分で含意している。制約条件だから敢えて書かなかった」という納得しがたいものでした。

また、「財政難で制度を変えざるを得ないというなら、財政難に至った責任の所在は?」という追及に対しては明確な回答はありませんでした。

さらに、最後に「本当によく仕事をやっている若手・中堅に光を当てるための制度だ」という発言があり、「評価」結果の高い一部職員を優遇し、その他の職員との間での処遇較差の拡大を志向する制度であることが明言されました。

以上が、2月6日の交渉における概要です。その他、書ききれなかったこともありますが、法人の提案内容を裏付けるバックデータの提供が、口頭によるごく一部のもの以外は無かったこともあり、今回はこの程度としたいと思います。


Ⅳ.組合の見解

  1. 法人財政の急速な悪化と、法人固有職員の年齢構成が極端に偏っていて今後の平均年齢の上昇により市職員と同等の処遇は維持できないという「制約条件」を前提とした提案である以上、今後、中長期的に法人固有職員の処遇を「引き上げない」ための制度変更であることは確実です。しかも、その枠内で(月例給の上位昇給を廃止した上での)勤勉手当の「上位評価者」への優先的配分ですから、勤勉手当がB,C評価(8割程度)の場合、月例給の上位昇給による埋め合わせの機会も無く、これまでよりも処遇が低下することになる可能性が高いでしょう。
  2. また、勤勉手当でのA評価への配分増と言っても、交渉の中で口頭で示された額の変動は、これまでの「A評価者の全員分」で年間総額260万円程度の配分額が2670万円程度(給付人数は現在の4倍)になるというものです。モデルケースの数値が示されていないため不確実ですが、上位昇給廃止分等の3つのマイナスと比較して大幅に大きな額となるとは考えにくいところです。
  3. そのような少しばかりの額の変動がインセンティブになるかも疑問です。月例給の上位昇給によるリベンジのチャンスも無いB、C評価者のモチベーションが上がらないのは確実として、A評価者に関してもそうはいかないだろうという反証として行動経済学の研究の例を挙げておきます。

    慈善募金の寄附集めを使った実験で、①慈善事業の意義を十分に説明してから募金集めをしてもらったグループと②慈善事業の意義のインプットに加えて各人が集めた募金額の1%のボーナスを支払うことを約束したグループ、③各人が集めた募金額の10%のボーナスを支払うことを約束したグループ(慈善事業の意義に関する説明なし)という3グループに分け、どのグループの成績が最も高く、どのグループが最も低くなるかを検証したものです。

    さて、みなさんはどうお考えになるでしょうか?

    最も高いパフォーマンスを挙げたのは①のボーナス無しのグループで、最も低かったのは②のグループでした(『その問題、経済学で解決できます。』ウリ・ニーズィー、ジョン・A・リスト)。実験の結論は、金をインセンティブにするならそれはたっぷり支払われなければならないというものです(組合が賃金の話をしているので、ボランティア活動では活動意義を十分に理解した上での無報酬が一番いいという話は除きます)。加えて勤勉手当のA評価の上乗せ分の原資は、もともと他の形で受け取っていたか、受け取る可能性のあったもので、別に今までの給与に純増で上乗せされるものではありません。インセンティブとしてはさらに効果は怪しくなります。
  4. 今回の変更により法人化時の「法人固有職員の処遇は市職員に準じる」という合意が反故になった場合、これまでであれば勤勉手当(賞与)に関しても「民間企業との較差に基づく市人事委員会勧告による横浜市の給与」に準じていたものが、民間企業同様、「法人の業績」次第で如何様にも、簡単に動かすことができることになります。むしろ本筋はこちらの方で、今回の提案で来年度の給与が幾らくらい変わるかよりも、法人化時の合意が反故になることで、以後は給与・給与制度共に経営側がいつでも好きなように変更できるようになってしまう、ことに賞与とは本来そういう性格のものだという事こそが最大の問題です。
  5. また、月例給の上位昇給より勤勉手当のA評価の方がインセンティブとなるという根拠も意味不明です。それに繰り返しますが、勤勉手当の成績率・分布率の拡充は「今年度の横浜市における住居手当の1600円の引き上げに固有常勤職員については追随しない」、「月例給の上位昇給の廃止」、「勤勉手当の算出基礎からの扶養手当の除外」という3つ措置により浮いた資金を廻すことで実行されるもので、人件費のアップで達成されるものではありません。つまり、勤勉手当のA評価者にしても、その増分の原資は「自分も対象であった可能性のある月例給における上位昇給分」と「従来通り市に準じていれば自分が借家・借間住まいの場合確実に支給された住居手当の増分」、そして同じく確実に自分が受け取っていた「勤勉手当の算出基礎からの扶養手当の除外」です。何やら朝三暮四のような話になってきた観もあります。
  6. 法人化時の合意について「あくまでの発足時の合意」と主張していますが、合意自体の有効期間を特に定めていない以上、その変更はあくまでも労使の合意に拠るべきで、法人化以後10年以上が経過したからと言って合意が自動失効しているがごとき主張は受け入れられません。
  7. 交渉期間について「誠実に」と言っていますが、人事給与制度、それも労使合意に基づき法人化以後10年以上続けきてきたものを実質1か月余の交渉で決着しようとしている時点で「誠実」とはとても言えません。
  8. 前回も書いたように、法人固有職員の年齢構成の極端な偏りは経営側の人事政策の結果であり、誰も何もしていないにもかかわらず自然発生したわけではありません。毎年、採用計画が立案され、承認され、実施された結果です。他の公立大学法人の中には、年齢構成の極端な偏りを回避するための計画的な採用を行ったところも複数存在しています。当然ながら、その責任をまず問うことが必要です。経営責任無き経営は近代社会においては許されるものではありません。
  9. 「法人財政の急速な悪化」についても同様ですが、それ以前の問題として、これも前回指摘したように、一方で「財政難」を言い、固有職員人件費の抑制に着手しながら、もう一方では4月からの次期中期計画では様々な新規事業、組織新設・増設が目白押しとなっています。右手のバケツには「水が無いからもう入れるのはやめよう」と言い蛇口を閉めながら、左手は穴の開いたバケツに水を注ぎ続けるがごとき経営は到底合理的なものとは言えません。
  10. 関連して、本当に経営難なのかという問題もあります。法人化時に「もっと経営努力を」ということで年額で30億円余削減された運営交付金ですが、次期中期計画の期間中の運営交付金予定総額は、現行第2期中期計画の約580億から約650億へと大幅に増額される模様です。労働者の権利保護が法によって与えられた使命である労働組合としては、本当に経営が悪化し、例えば(公立大学の経営においては非現実的な仮定ですが)キャッシュフローが悪化、運転資金が枯渇しそうなどという事態であれば、他の項目と同様に人件費についても削減の対象となるという事は否定しませんし、少なくとも交渉自体には応じるでしょう。しかし、そうではなく、ただ、他の事項に優先して人件費を削減しようということなのであれば、法に与えられた使命と組織における公平・公正性のために当然同意は出来ません。あるいは、運営交付金の大幅な増額を受けても苦しいほど経営状態が悪化しているというのであれば、それはやはりまず第1に経営責任の所在の問題、そして更なる経営状態の悪化につながるであろう拡張政策は一体どういう事かという問題になります。
  11. また、本学の場合、「評価に基づく処遇」自体がどこまで公平、公正に行いうるかという点でも問題があります。法人化以降、2014年度の固有常勤職員任期制廃止まで、職員組合は毎年複数持ち込まれる「上司との折り合いが良くない ⇒ 日常での軋轢 or 低評価 or ハラスメント ⇒ メンタルを中心に健康を害する ⇒ 任期更新が不可とされる or 1年などの短期契約を提示される」という相談への対応に追われてきました。ひどい時には5,6件が同時進行していたことさえあります。上記のようなトラブルは任期制の廃止により連鎖の最後の部分が無くなったことで一見沈静化していますが、上司との人間関係の軋轢等の問題は依然として存在しています。組織文化にまで及んだ影響の修正は容易なことではありません。
  12. この点もデータの提示が無いと確実には言えないのですが、来年度に関しては仮に当局側主張の通り実施されたとしても、勤勉手当の評価による差はそれほど極端なものにはならない可能性が高いと思われます。しかし、これまでの当局側の感触や法人化以降の経営サイドの態度・傾向、それに④で指摘した根本的な問題点からすると、その後、上位評価者に対する傾斜配分を大きくしていく可能性は高いであろうと予測されます。しかし、本学には上記のような評価に関する組織的な問題があり、また、仮にこれが「普通の組織」レベルに改善されたとしても、メンバーシップ型人材によって構成された組織における評価はもともと極めて難しい問題をはらんでいます。個別のジョブは明確でなく、メンバーシップの集団内においては共同して仕事を進めることが良しとされ、ジョブに基づく専門性はむしろ忌避されます。そのような仕事の在り方は個別の厳密な評価には馴染まず、評価による処遇の差が大きくなるほどメンバーシップ集団内での軋轢を強めることになります。大企業の成果主義の失敗は、メンバーシップ型の人事システム内にシステムと馴染まない「個別社員の成果」による評価を持ち込み、それに基づく処遇の差を拡大した点が大きく影響しています。逆に、処遇の差を小さくとどめても、それは③で指摘したように、コストをかけて制度・運用を変えることに見合うほどの成果が得られない可能性が高いでしょう。であれば、余計なことはせずに20代、30代職員の住居手当を法人化時の合意通り9500円から19600円に引き上げる方が制度変更や評価のコスト、リスク無しに職員の処遇を改善できるわけで、むしろ効率的であるとさえ言えます。
  13. 今回の提案通りになった場合、これまでも市派遣職員、法人固有常勤職員、契約職員、嘱託職員、アルバイト、派遣社員と複雑な人的構成であった各職場が、これまでは同一であった人事給与・評価制度面で市派遣職員と法人固有常勤職員が分離、別建てとなりさらに複雑になります。時間的コストも含めさらに非効率化する可能性が高いでしょう。
  14. そもそも論の一部として、市の住居手当の引き上げに追随する資金があるのであれば、合意に従いそうすべきです。もともと市が昨年度、20代、30代の住居手当を倍額の18000円に引き上げたのは、横浜市やその近辺において借家・借間の家賃が高く、給与も抑制されている中、せめて9000円から引き上げようという意味があったはずです。それでも横浜市やその近辺において借家・借間の家賃を賄うには到底及ばず、今年度の引き上げ額1600円を加えて19600円としてもそれは同様です。ましてや現在の法人固有常勤職員の月額9500円では住居費のごく一部しか賄えません。
  15. 考課制度については、今回は変更せず29年度中に見直すとしています。給与制度と考課制度はセットで機能するもので、考課制度はどう変えるか分からないが給与制度は前倒しで変更するので同意しろというのは組合としては到底納得できるものではありません。どのような考課制度に基づき給与制度がこう変わるという全体像が明らかにされて初めて本来の交渉が可能になるものです。
にほんブログ村 教育ブログ 大学教育へ