2020年9月27日日曜日

従業員監視ソフトの導入の何が問題なのか

SKYSEA Client View の導入に関し、組合として急遽団体交渉を要求したことについては先週の組合ニュース(公開版)の通りですが、もう少し、その何が問題かという点について書いてみようと思います。

と言っても、ちょうどおあつらえ向きに組合の懸念している問題点について、世界的に高名な経営学者が新型コロナ禍のリモートワークと絡めて書いている文章があるので、直接的な問題点についてはその紹介をもって代えようと思います。

スタンフォード大ビジネススクールの教員で、国内でも「悪いヤツほど出世する」「ブラック職場があなたを殺す」「影響力のマネジメント」「なぜ、わかっていても実行できないのか 知識を行動に変えるマネジメント」「人材を活かす企業」等多数の翻訳書が出ているジェフリー・フェファー教授が書いた「要注意!社員を『リモート監視』する会社の末路」という文章が東洋経済オンラインに8月19日に掲載され、さらにYAHOO!ニュース等、多数のサイトに転載されています。

詳細は上記サイトをご覧いただいた方がいいと思いますが、サブタイトルだけでも内容は十分に想像できるので以下列挙してみます。
「急成長する『従業員の監視会社』」
「1.組織が効果的に機能するために最も重要な要素は『信頼』」
「従業員の監視は今に始まったことではない」
「2. 監視は信頼を損なう」
「3. 企業は細かな行動ではなく、結果を評価するべき」
「従業員への信頼度が低い会社で働く弊害」
「4. 監視はストレスや健康問題の原因」

どうでしょうか?世界的に高名な研究者が過去の研究も紹介しつつ展開している主張と導入を必要と主張する側、どちらが説得力があるでしょうか?

ついでにいくつかの文章も引用してみます。

「88店舗の小売店を対象に行われた長期調査から、従業員が経営陣に信頼されていると感じている場合、その売り上げやカスタマーサービスのパフォーマンスは上がることが判明しました」
「就業年齢にあるアメリカ人1202人のうち23%が、リーダーが信頼できれば、もっと多くのアイデアや解決策を提案すると回答しています。」
「従業員を厳しく監視する企業の行動は、従業員は監視しなければ仕事をしないという、会社の信頼のなさを示しています。」 「これは、会社側が、監視や指示によって業務が円滑に回ると信じているからです。社会心理学者ロバート・チャルディーニや私は、これを『監視信仰』効果と呼んでいます。」
「ところが実際には、監視によって、会社に対する従業員の信頼が損なわれます。」
「企業は、物事を遂行させるために人を採用しているのだと思います。必ずしも、一定時間の労働や特定の行動をさせるためではないはずです。定常作業の自動化が増え、問題解決能力やクリティカルシンキングなどのソフトスキルの価値が大きく増している現在ではなおさらでしょう。」
「従業員は(中略)監視が必要な小さな子どものように扱われたいとは思っていません。」
「信頼度の低い企業で働く従業員と比較して、信頼度の高い企業で働く従業員は、ストレスが74%低く、職場での活力が106%高く、病欠が13%少なく、バーンアウトが40%少ないことが分かりました。」
「自由という感覚を奪うことが、従業員の健康や活躍に非常に重大な影響を与えることに加え、厳しい監視は、上司に対する部下の信頼や部下に対する上司の信頼を損ねてしまいます。信頼の文化は、監視を増やすのではなく、減らすことにかかっています。」

さて、今回のSKYSEA Client View導入に関して直接的に言いたいことは、このようにほぼジェフリー・フェファー教授が既に指摘されていました。あとは、公式の導入理由に照らせばオーバースペックに見える、決して安価ではないであろうシステムを大々的に導入するくらいなら、より限定的で安価なシステムにして、その分の費用は経済的困難を抱えている学生の支援に回した方が良かったのでは、とか、遠隔授業のための教員、学生の支援に回すべきだったのでは、あたりでしょうか。労働組合的には、横浜市に大きく劣る一般職、有期雇用職員の待遇改善やこれまた横浜市と大きく差が開いている固有職員総合職の住居手当改善に回す、というのでも別に構いませんが。

もう一つ、個人的に何とも言えないばかばかしさを感じる点について付け加えておきます。

必要があって昨年、経営学者である太田肇同志社大学教授の著書を読み漁ったことがありました。

太田先生は、長年にわたって日本の組織と個人の関係に焦点を当てた研究を行っていらっしゃいますが、近著「なぜ日本企業は勝てなくなったのか:個を活かす『分化』の組織論」で、日本企業が勝てなくなった要因として、①工業社会では、均質で協調性、勤勉性を備えた人材が重宝され、日本企業という「共同体型組織」はこのような人材を獲得、育成し、標準的な意欲と能力を引き出すのにきわめて効率的だった、しかし、②IT化、ソフト化、グローバル化が同時進行するポスト工業社会に入ると、一転して創造性、革新性、感性、ユニークな人間性といった、自発的で質の高いモチベーションで発揮される能力や資質が重要になり、「共同体型組織」という日本企業の特徴は逆にポスト工業社会への変化への適応の妨げになっている、と指摘しています。

今回の事態を太田先生の論旨に当てはめると、工業社会に適合的だった「共同体型組織」がポスト工業社会を駆動するIT化には適応できずに衰退する社会の中で、 遅れを取ったIT化への適応のために「共同体型組織」の在り方や個人の働き方を変えようとするよりも、「共同体型組織」の管理統制強化、その手段としてITの利用拡大を図っている、という図式になります。その倒錯性に気づく人が何人いるでしょうか。

(菊池 芳明)
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2020年9月24日木曜日

SKYSEA Client View導入に関する団体交渉要求について

9月14日、事務局から職員に対して「今月中にSKYSEA Client ViewをPCにインストールするように」というメールが送られてきました(すべての部署ではないという情報もありますが、組合では全容を把握していません。また、今回は教員、学生が利用する教育研究系のネットワークはとりあえず対象外のようです)。

このソフトについては、メールでは「管理用ソフト」であるとし、導入目的は不正なPCのネットワークへの接続を監視する、ウィルス感染の際の調査としていますが、このソフトの機能はそのような範囲にとどまるものではなく、実態としては職員のPC内のすべての情報とPCを使って行われるすべての挙動を監視する「従業員監視ソフト」とでも呼ぶべきものです。

そのようなソフトを導入し、職員をいわば囚人のような常時監視下に置くことは職場環境として著しく不健全、問題のあるものであり、労使関係上も看過すべきではないと判断したため、急遽、当局に対して理事長、事務局長との団体交渉を要求しました。要求書は下記のとおりです。

なお、「SKYSEA Client View」については

「クライアントPC を丸裸にするIT資産管理ソフト『SKYSEA Client View』」

「機能一覧」

「組織内のネット素行を監視しているつもりが機密情報ダダ漏れに貢献してしまったというお粗末」

あたりをご覧ください。

また、このようなことになるため、以後、組合に対する連絡、特にハラスメントの相談、残業実態に関する情報等、組織の負の側面に関わるものについては、組合のgmailのアドレス宛てに送るようにして、執行委員の大学のアドレス宛てには絶対にしないよう気をつけてください。発信者と内容がチェックされる危険があります。

また、返信が必要な場合、プライベートのアドレスを記入してください。同様の理由で、組合からの返事を大学のアドレス宛てに送るわけにはいきませんので。
不自由な話ですが、くれぐれもご注意をお願いします。


2020年9月18日
公立大学法人 横浜市立大学
理事長 二見 良之 様
横浜市立大学職員労働組合(横浜市従大学支部)
委員長 三井 秀昭

SKYSEA Client View導入に関する団体交渉要求書

市民から期待され信頼される大学教育と運営の確立に向け、日頃の取り組みへのご尽力に敬意を表します。

さて、9月14日にICT推進課より職員に対して「端末管理エージェントソフト(SKYSEA Client View)をインストールする」よう連絡がありました。

導入の目的は「事務ネットワーク内で不正な端末やソフトウェアが使われることを防ぐとともに、セキュリティ上のインシデントが発生した際の調査を行えるようにする」とされていますが、SKYSEA Client Viewの機能はそのような範囲に限定されるものではなく、実際にはインストールしたPC内のすべてのファイル名の収集、PCの挙動のすべてのリアルタイムの監視が可能な「従業員完全監視ソフト」ともいうべきものです。

掲げられた目的だけであれば、インストールしたPCのあらゆる挙動の把握、キーロガー機能、画面キャプチャ機能、PC内のあらゆるファイル名の収集・検索機能などはオーバースペックであり、スパイウェアと同様の機能を実装する必要があるのかは疑問です。

このようなソフトを導入し、PC稼働中のあらゆる挙動を監視可能とすることは、組織の基本原理を信頼から不信へと変更することに他なりません。このような不信に基づく監視は、組織が効果的に機能するために最も重要な従業員の組織への信頼を損ね、さらには従業員の健康をも損ねることはこれまでの複数の研究でも明らかにされています。

本学は法人化以降、(市派遣職員を除く)全員任期制の上に上意下達を基本とするガバナンスを取り、多くの教職員が次々と退職していきました。近年、そのような惨状がある程度落ち着いたのは、現理事長の方針によるものと組合として評価しています。

しかしながら今般のSKYSEA Client Viewの導入は、そういった環境を一変させかねないものです。

不信に基づく看守と囚人の関係ごときガバナンスへの転換へと至らないために、10月1日より運用されるSKYSEA Client Viewの機能を、導入目的として掲げている「事務ネットワーク内で不正な端末やソフトウェアが使われることを防ぐとともに、セキュリティ上のインシデントが発生した際の調査を行えるようにする」に必要な最低限のレベルに局限し、職員のPCの使用状況の常時監視は控えることが健全な組織運営として必要です。

情報システムの在り方だけでなく労使関係全体の基本原則の在り方に関わる問題であり、経営者による責任ある説明と交渉が必要であることから、法人理事長及び事務局長を交渉委員とする団体交渉を申し入れます。

9月24日までに文書をもってご回答ください。



1.日時    2020年9月28日18時より
            
2.場所    両者協議の上決定

3.交渉委員  当局側 法人理事長、事務局長
        組合側 職員労働組合執行委員、横浜市従本部執行委員

4.交渉事項  SKYSEA Client Viewの機能の限定的運用について
          
以上

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