「高度専門職」の大学設置基準への位置づけについて
(1)-文科省が制度化を急ぐ理由?-
(2)-「高度専門職」か「専門職」か-
(3)-「高度専門職」から「専門的職員」への変更とメンバーシップ型雇用における「専門性」-
その後1年以上の時間が経過したものの、実のところ検討はほとんど進んでいないという状態なのですが、以下、簡単に前回以降の展開についてご紹介したいと思います。
平成27年2月から始まった第8期中教審ですが、この問題についての実際の検討を委ねられた大学教育部会では、まずは実態の把握を行うべきだという話になり(大学教育部会(第36回))、その後はアンケート調査の内容、項目に関する議論を行っただけで、調査結果が取りまとめられるまでは全く審議は行われませんでした。因みに、この間、部会としての審議は、3つのポリシーに基づく大学教育の改善とそれと連動した認証評価制度の改善にほぼ集中しており、それらの審議の結果は、それぞれについての法令改正、3つのポリシーの策定及び運用に関するガイドライン、認証評価制度の充実に関する審議まとめとして3月末から4月1日にかけて相次いで発表されています。
そして、1月18日に開催された大学教育部会(第41回)において、専門的職員の国内における実態調査の結果の概要(と言っても30P近くあるのですが)に関する報告が行われました。回収数は4大が443校、短大116校で、4大に関しては半数以上、短大に関しては3分の1程度が回答しているので、この種の調査としてはこれまででは最も包括的なものと言えるでしょう。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/015/gijiroku/1366190.htm
内容については、各自でご覧になっていただく方が良いというか、文科省の説明を借りれば「現状は極めて多様であり、資格・処遇等についても確立していないことが明らかになった」というものなので、要約がなかなか難しいのですが、個人的には目に付いたのは、①予想通り、現時点で多く配置されているのは健康管理、図書、就職・キャリア形成支援で、保健師、カウンセラー、司書などの伝統的に配置されてきた専門職と20年余り続く就職難を反映して急増したキャリアカウンセラー等である、②大教センターの教員、URA等と思われる一部を除くと事務職員が多い、③現在配置している専門的職員のうち、国立、私立では図書に関して重要性の認識が低い、④国立大ではIR、研究管理、国際が今後、専門的職員を配置する分野として重視されている、⑤現状では、専門的職員には学位、実務経験を特に求めず、給与制度も独自のものを用意しないのが大勢、⑥専門性に着目して中途採用を行うケースが多いが、職員の中から育成するケースも多い、辺りでした。
この報告に対して、各委員から発言がありましたが、事務職員出身の委員からは、「調査は、専門的職員が現実には事務職員ベースであることを明らかにした。今後重視するものとしても、特定分野の専門家というよりは、大学全体を分析し提言するような分野に関心がもたれていることが読み取れる」として、当該委員のこれまでの「専門的職員(高度専門職)は事務職員ベースであるべき」という主張に沿った見解が表明されました。これに対して、高等教育論のある委員からは「調査結果からは、専門的職員があまり重視されていないのが現状であることが読み取れる。ジョブ・ディスクリプションも出来ていないのに、この段階で法令に入れるのは問題だ。職員養成の大学院も上手く行っておらず、標準化された短期の履修証明プログラム辺りから始めるべきだ」という意見が出されました。
結局のところ、一昨年度の議論の段階ですでに明らかになっていましたが、日本型ジェネラリストである事務職員と日本では少数派、世界的には標準的存在である特定ジョブに立脚する教員に近い(高度)専門職という、人材としてまったく異なる2種類のいずれを念頭に置くかで考え方が大きく食い違い、専門的職員あるいは高度専門職をそのどちらにするかという形で議論している限り、いつまでも議論は収斂しそうにないように思えます。この点については、過去記事の2回目と3回目で書いた通りなので繰り返しませんが、今回の調査結果に沿って考えれば、IRer、URA等の日本型ジェネラリストである事務職員のローテーションで済みそうもない専門職については、その「必要性」と「採用し、適切な待遇で雇用し続ける人事、財政能力」を持っている国立大学(文科省が整備を要求し、曲がりなりにもそのための予算も措置してくれる)を中心とした一部大学で整備を進め、その他の大学においては、事務職員の(ジョブ・ローテーションの在り方の見直し等を通じた)能力向上で対応していく、といったあたりが当面の現実的な解になるでしょうか。ただし、国立大学等においてジョブ型の専門的職員を「適切な待遇で雇用し続ける」というのは、現状ではかなり怪しいので、正確には「適切な待遇で雇用し続ける(べき)」と書くべきかもしれませんが。
なお、今後については、文科省から「現状は極めて多様であり、資格・処遇等についても確立していないことが明らかになるなどしたため、現時点で新たな職として法令に規定を置くのではなく、現状のより詳細な分析や情報収集、環境整備に取り組む」との提案があり、了承されているので、今年度以降もさらに調査やそれを受けた議論が引き続き大学教育部会を舞台に行われることになりそうです。
もう一つ、混迷の相を深める「専門的職員」の議論とは対照的に、SDの義務化については議論らしい議論もないまま、3月31日というまさにギリギリのタイミングではありましたが、あっさりと大学設置基準の改正が行われ公布されました。ただし施行は1年後の平成29年4月1日からで、各大学はこの1年の間にSDに関する計画等を定め、29年4月1日から実施に移すことが要求されます。
なお、この問題に関連して、2月17日に開催された大学教育部会(第42回)において、委員から「職員には教員、技術職員も含むというが、学長等のトップ層も含まれるのか?」という質問があり、それに対して文科省からは「学長等も含まれる」という答弁が行われています。世界でも冠たるトップダウン型経営形態を法律で強制するという方法まで取ったのですから、そのトップの資質は組織にとって文字通りクリティカルな問題で、人材養成は最重要課題であるはず(正直、順番が逆だろうとは思いますが、やらないわけには行きません)なので、この答弁自体は歓迎すべきものです。しかし、この条文「大学は、当該大学の教育研究活動等の適切かつ効果的な運営を図るため、その職員に必要な知識及び技能を習得させ、並びにその能力及び資質を向上させるための研修(第二十五条の三に規定する研修に該当するものを除く。)の機会を設けることその他必要な取組を行うものとする。」を読んだだけで、学長だの理事長だの理事だのも対象であるとはふつう思わないのではないでしょうか(BDという別の名称を使う場合もあるわけですし)。文科省が出したはずの通知については見ていないので何とも言えませんが、もし通知に明記されていなければ、その辺りは実際には無かったことになるのでは、という懸念も感じます。審議会の、分科会の、さらに下の部会での答弁でしかないと言われてしまえばそうなのですが、この稿をご覧になっている方には、今回の改正で言う「職員」には学長等の経営陣も含まれる旨、文科省側の答弁があったことをお知らせしておきます。
さて、最後に少し宣伝を。
1月に京都で開催された「大学職員フォーラム2015」で、「『専門的職員』、『高度専門職』をめぐる検討経緯と日本の大学職員の『専門性』」と題して基調報告を行いました。これまでの政策的経緯の概観と、日本型ジェネラリストしての大学職員という観点から「専門的職員」「高度専門職」の在り方を検討したものです。準備不足もあり、あれこれと反省点も多いのですが、主催者である高等教育研究会から来月あたりに発行される「職員ジャーナル」の第19号に当日の内容が掲載される予定です。よろしければご一読ください。
http://www.bekkoame.ne.jp/ha/shes/
また、5月14,15日に北大で開催される大学評価学会第13回全国大会「若者、地域とともに育つ大学 ~北海道から考える~」で、「大学職員と専門的職員――両者の関係と今後の課題」と題して分科会の企画に関わりました(15日午後)。 ほぼ同様の問題意識に立脚したものですが、では、海外大学の実態はどうなのかという点について、大正大の高野篤子先生から「英米の大学職員について -日本との比較的考察」というタイトルでご報告をいただきます。高野先生はその著書『アメリカ大学管理運営職の養成』で、アメリカの大学管理運営職の実態について、恐らく国内唯一の包括的で詳細な研究を発表されていて、今回は、その後の研究を踏まえアメリカに加えイギリスの管理運営専門職の状況について紹介いただく予定です。また、開催校である北大附属図書館の梶原茂寿さんからは「学術情報のオープン化時代に求められる大学図書館職員の専門性」と題して、学術情報の在り方の変化に対応した図書館職員の専門性の行方についてご報告をいただきます。図書館司書は保健師などと並んで、専門的職員だの高度専門職だのが云々されるはるか以前から学内に専門職として確立されていた数少ない存在であり、伝統的な専門職が業務を巡る環境の変化を踏まえどのように変わろうとしているのか、興味深いご発表になると思います。
なお、私自身は企画側なので発表という形ではありませんが、趣旨説明という事で通常の学会発表相当の時間で話をする予定です。「専門的職員」「高度専門職」を巡る政策的経緯については出来るだけ簡潔にして、一つは学会の方向性にも沿った形で、事務職員の地位や能力向上を巡るここ数年の政策的議論が「大学という共同体の一員」というよりは、「トップダウン型経営におけるトップの補助装置」というこれまでの位置づけとは異なる前提から出発しており、その点が事務職員の在り方に影響を与える可能性について、また、日本型ジェネラリストとしての事務職員の「能力」について、可能であれば1月のフォーラムでの発表よりもう少し突っ込んだ話をしたいと考えています(後者については、完全にこれから準備するので間に合うかどうかわからないのですが……)。
大会参加費は、非会員の方で3000円、院生・学生は1000円、懇親会費は4000円(院生・学生は2000円)で、日本高等教育学会、大学教育学会等のこの分野のメジャーな学会に比べるとかなり格安に抑えてあります。興味のある方には、是非ご参加ください。詳細については、下記の学会HPから「第13回全国大会(北海道大学、2016.5.14-15)プログラム)」をご覧ください。
http://www.unive.jp/
(菊池 芳明)
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