2022年11月11日金曜日

今年度の給与・特別給について

 10月12日、本年度の横浜市職員の給与と特別給(ボーナス)に関する横浜市人事委員会の勧告が発表されました。
https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/saiyo-jinji/romu/kyuyo/kako.files/04gaiyou.pdf
給与については、横浜市内民間事業所の給与との比較に基づき新規学卒者に対する初任給の5000円引き上げ(大卒者)等若年層を中心とした給与の引き上げ、特別給(ボーナス)については0.1月分引き上げ年4.40月とするというものです。

 繰り返しお伝えしてきたように、法人化時に職員の処遇については「市職員に準じる」ことを合意し、以後はこの合意が守られる場合には基本的にそのまま受け入れ、これを逸脱した場合には大学独自に交渉を行い法人化時の合意を確認、市職員と同様の処遇を確保するよう交渉を行ってきました。例えば、当局側が「法人化時の合意など知らない」と言い出した際の再確認をめぐる交渉、
https://ycu-union.blogspot.com/2016/07/blog-post_94.html
https://ycu-union.blogspot.com/2016/09/blog-post.html
財政難を理由に法人固有職員の住居手当について市職員との格差が最大で月額1万円以上に拡大、7年以上に渡って要求と交渉を重ね再び市職員と同額にまで引き戻した住居手当をめぐる交渉などです。
https://ycu-union.blogspot.com/2022/03/blog-post_98.html

 今年度は上記のように10月12日に市人事委員会が給与、特別給とも引き上げの勧告を出したわけですが、11月9日、当局側より大学においても「市に準じて給与、特別給とも引き上げる」との説明がありました。具体的には大卒者の初任給を5000円引き上げるほか、30代半ば程度までの若手職員を対象に給与表の引き上げの改定を行うというものです。特別給についても市人事委員会勧告通りの引き上げとなります。

 また、かつての嘱託職員、現在の一般職については給与の0.22%引き上げを行うとの説明がありました。特別給についても月額給与が算定の基礎になるので僅かですが引き上げになります。一般職については、かつての嘱託時代においても法人化後は市の嘱託と給与格差が拡大する傾向にあり、繰り返し引き上げを求めていました。給与はそのままで任期制から無期雇用の一般職に移行して以降は市にはない独自の人事制度となり、市との比較というよりは非正規時代の給与水準のままで業務負担が増大している状況などに照らして給与引き上げを求め続けているものの、こちらについては残念ながら当局側が受け入れない状態が続いています。とはいうものの、制度変更提案時には基本的に嘱託時代と同様に短時間勤務が主となるという想定だったものが実際には残業してのフルタイム勤務状態が続発し、希望する個別職員のフルタイム勤務への契約変更の交渉や短時間勤務とフルタイム勤務の時間当たり給与額が異なっている(短時間勤務の方が低い)状態だったところ、時間当たり給与を同額とする成果を獲得したりもしています(こちらも4年かかってしまいましたが)。
https://ycu-union.blogspot.com/2022/03/blog-post.html

 もう一つ、一般職の「試用期間」的な位置づけをされている有期雇用職員(1年契約最大3年まで)については、市の会計年度任用職員と同様に引上げ等はないとの説明がありました。有期雇用職員については、そもそもその位置づけからして疑問があり、新制度提案時に試用期間は一般職として採用後に普通の試用期間とすれば済むことであり、別の職種とすること自体がおかしいと指摘した経緯があるのですが
https://ycu-union.blogspot.com/2017/07/blog-post_27.html
制度が発足して以降はそれはそれとして、実際に雇用されている人がいる以上、組合として権利を擁護する対象であり、一般職とセットで給与引き上げを求め続けています。

 このように今年度は、市と同様に(最近の物価上昇分をカバーできるレベルではありませんが)給与、特別給とも引き上げ、市にない独自制度である一般職については給与、特別給ともわずかな額の引き上げ、有期雇用職員に関しては処遇改善はないということになります。総合職等、法人化時の合意の対象となる職種については合意を逸脱しない限りは市における交渉に委ねていますが、そこに含まれない一般職、有期雇用職員については大学独自で交渉するしかありません。しかし、一時期に比べ一般職、有期雇用職員で組合に加入する人は大きく減っている状態です。

 安倍、菅政権後、それまで報道されないか大きく報道されることのなかった日本経済と日本の労働者を巡る惨状(先進国中で一国だけ、あるいはイタリアと日本のみ各種数値が他の諸国に比べ劣後し続けており、1人当たりの給与額やGDPで30年前は0.6倍程度だった韓国にも抜かれているか間もなく抜かれる等)が次々と大手メディアでも取り上げられるようになっていますが、日本の労働者の給与が上がらない一因として、労働者が労働組合に入らないため経営者に給与引き上げ圧力が働かないという点も指摘されています。今後、黙っていても生活水準が向上していくという人はますます少数になっていく可能性が高いでしょう。恒例ですが、組合への加入を呼びかけて終わりとします。
https://ycu-union.blogspot.com/2010/04/blog-post_284.html

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大学設置基準改正 ― 教育研究実施組織、今後の影響 ―(前編)

 前回8月11日付の組合ニュースで設置基準改正案の教育研究実施組織のつじつまの合わない部分についてあれこれと推測してみましたが、蓋を開けてみると全部はずれでした。

 「従前の教員組織等が果たしてきた役割や必要性は変わらず、教員や事務職員等の役割や連携等について、学内の規程等に明記すること等により、引き続き担保されることが求められる」「必ずしも今回新たに規定した『教育研究実施組織』に対応する新たな組織を設けたり、新たに人員を配置したりすることを求めるものではない」(大学設置基準等の一部を改正する省令等の公布について(通知))などという説明が出てくるとは予想していませんでした。

 旧設置基準第3条および第7条の「教員組織」をわざわざ上書きまでして消し、代わって「教育研究実施組織」を書き入れたにもかかわらず、「従来の教員組織が果たしてきた役割や必要性は変わらない」、つまり学部教授会の位置づけは変わらない、そして「『教育研究実施組織』に対応する新たな組織を設けることは求めない」、つまり「組織」と法令に明記したにもかかわらず「組織」を作る必要はないというのですから、では、一体何のために改正を行ったのかということになります。

 あからさまに何か裏面の事情が存在するのだろうと疑わせる展開ですが、その点につきネット上でかつ無料という範囲での観測では、北大の光本先生がインタビュー記事だったかで今回の改正設置基準と教育再生実行会議の後継である教育未来創造会議の「我が国の未来をけん引する大学等と社会の在り方について(第一次提言)」(2022年5月10日)との関連性を指摘していて、それが正解なのだろうと思われます。光本先生が指摘されたのは、第一次提言の「現在35%の自然科学系専攻学生割合をOECD諸国最高の50%程度に」とする目標との関連性だったと思うのですが(あいにく当該記事は既に削除されたようでネット上には見当たらず、保存もしておかなかったのでうろ覚えの記憶になります)、それは当然スケジュール面にも影響するはずで、実際、「我が国の未来をけん引する大学等と社会の在り方について(第一次提言)」のページを見ると9月になってから工程表が追加されており、そこでは「学修者本位の観点から、最低基準性を担保した上で大学の多様で先導性・先進性のある教育研究活動を促すため、教員や校地・校舎等の規定も含めた大学設置基準等の改正を行う。【2022 年末まで】」とあります。

 もう少し具体的に言うと、わずか10年で大学生に占める自然科学系の学生の比率を15%程度引き上げるというかなり無茶な目標であり、その実現のために①専任教員の学内でのいわば使い廻しや非常勤教員、企業等の実務家の在職のままでの活用などがより容易となる基幹教員制度や②授業科目の自ら開設の原則、単位互換等の60単位上限、遠隔授業の60単位上限、連携開設科目に係る30単位上限、校地・校舎面積基準など広い範囲で設置基準の規定の一部または全部の免除を受けられるという特例制度の活用によってより低コスト、短期間での自然科学系学部学科の設置や定員増などを容易とするため、設置基準の改正を急がされた、という経緯だと思われます。なお、いくつかの情報をつなぎ合わせるともともとの改正設置基準の施行の予定は2024年4月だった可能性が高そうです。これであれば大学分科会における検討期間は1年~1年半は取れたはずですので実質的な議論や修正もできたはずです。

 ここでいわば割を食ったのが教育研究実施組織や旧基準での学生部、事務局に関わる変更部分です。前述の基幹教員制度や特例措置については、大学分科会の質保証システム部会における検討(2021年6月~2022年3月)を経て3月に「新たな時代を見据えた質保証システムの改善・充実について」(審議まとめ)として取りまとめられており、大学分科会での実質的な議論は飛ばしたとしてもそれなりの検討は既にしました、という主張は出来ないこともないのに対して、教育研究実施組織をはじめとする組織に関わる部分については「新たな時代を見据えた質保証システムの改善・充実について」(審議まとめ)でも「現在は大学設置基準の様々な箇所に分散して規定されている教員や事務職員、各種組織に関する規定を一体的に再整理する。」程度であり、内容的にも教育の質保証よりは「大学ガバナンス改革」の系譜に位置づけるべきもので、改めて大学分科会での議論、検討が必要な問題であったはずです。しかし実際には5月の分科会に省令案骨子案の提示、次回6月に改正省令案提示、次の9月の分科会ではもう改正の諮問と議決、しかもいずれも他の議題と一緒に審議というスケジュールで、これでは実質的な審議など望むべくもありません。改正された設置基準と通知等の解説部分に不審が生じるのは当然で、(相変わらずの官邸優位の状況ではあるので、そちらの意向や政治的状況にも影響されそうですが)教育研究実施組織については第2幕が数年内にあるかもしれません。

(菊池 芳明)
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