前回1月23日付組合ニュース以降の続報です。
前回の組合ニュースでは、「今年度の横浜市における住居手当の1600円の引き上げについて、固有常勤職員については追随しない(市派遣職員については実施)」だけでなく、4月からの「月例給の上位昇給の廃止」、「勤勉手当の算出基礎からの扶養手当の除外」という3つの措置を併せて、それによって浮いた資金を勤勉手当の成績率・分布率の拡充に充てるという給与制度の大きな変更を、しかも実施のわずか2か月前に突然提案してきたことをお伝えしました。今回はその続報になります。
1月20日に続いて2月6日、再度交渉を行いました。
Ⅰ.勤勉手当の具体的変更内容について
前回示されなかった勤勉手当の具体的変更内容ですが、A,B,Cの3段階評価はそのままとして、
- A評価となる職員の割合を現在の5%から最大で20%に拡大、B評価となる職員の割合は現在の90%から最大80%に減、C評価は現在の5%を絶対評価によるものとして割合は定めない。
- A評価になった職員への給付額の上乗せを現在の+5%から+15%に増、C評価の-5%はそのまま。
と変更するというものでした。
この当局側の追加提案を受けて、組合からは、まず、なぜこのような法人化時の合意に反する給与制度の大きな変更を、しかも昨年の8月に住居手当の取り扱いについて2年近い交渉の末、28年度は例外的に市に準じないことでようやく合意した直後、交渉期間もほとんど取れない年度末のタイミングで言い出したのかを改めて質しました。これに対しては、①「法人の財務状況が初めて完全な赤字となった昨年度以上に厳しく、積立金を取り崩しても昨年度以上の赤字になりそうだから」として、法人財務の急速な悪化に対応するためのものであるとの説明がありました。
加えて、4月から始まる次期中期計画について、②「このままでは人件費増による収益圧迫が現実のものになる」こと、③「そのような制約条件の中で、市が勤勉手当について変更するということがあり、財政状況の悪化という制約条件の中で、職員のインセンティブを維持するためには月例給の上位昇給より勤勉手当の加算で対応する方が望ましいと考えた」ことも併せて理由として挙げました。
これらのうち、③について、なぜ月例給(月給)の引き上げではインセンティブにならず、勤勉手当(賞与)の引き上げがインセンティブになるのか、意味不明であるとしてさらに説明を求めたところ、現場の職員を選抜したプロジェクトチームの2年間かけた検討で、市に準じた上位昇給にウェイトがかかり勤勉手当のウェイトの低い評価には不満が出て、勤勉手当の方が、このような業績を上げたからということで分かり易い、という組合側には説得力の感じられない追加説明がありました。
以上が、まず1月20日の交渉では明らかにされなかった勤勉手当の具体的変更内容に関する追加提案内容になります。
Ⅱ.法人化時合意の変更提案か?
続いて、同席していた、法人化時の「法人固有職員の処遇は市職員に準じる」という合意における当事者の一方である横浜市従本部の執行委員から「法人化時の市に準じるという合意ではこれ以上は財政が厳しい、変えるという提案か?」という確認があり、当局側を代表する人事課長から「そういう理解で結構」という回答がありました。これによって、今回の提案が当局側からの法人化時合意の変更を意図するものであること、法人固有職員の処遇を市職員とは別のものとしようとしていることが完全に明確になりました。
さらに横浜市従本部執行委員から「このような大きな問題は、過去の労使合意も踏まえ慎重に議論すべきもので、1月末提案、4月1日から実施では充分な議論などできない」との指摘があり、これに対しては「法人発足時に固有職員の処遇は市職員に準じるという合意があったのは承知しているが、あくまでの発足時の合意だ。地方独立行政法人法の趣旨に基づき、法人の給与は法人業務実績と社会一般の情勢に基づき決めることになっている。議論の期間については組合側と誠実に対話したいと思っている。2か月の中で精力的に協議したい」という答えでした。なお、この日の勤勉手当の具体的変更内容を記した追加提案文書の末尾には、組合側への回答期限として3月10日(金)を指定しています。実際には1月20日を起点にカウントしても交渉期間は2か月もありませんし、提案内容自体が出そろったのは1月27日、さらに交渉のために必要な各種データもまだほとんど示されていませんので、実質的な交渉期間は1か月もありません。
Ⅲ.その他
その他では、組合への提案文書における提案理由が「法人に相応しい人事給与制度」・「意欲・能力・実績を反映するメリハリのある人事給与制度とする」ことであり、口頭で繰り返している「法人財政の悪化」「固有常勤職員の年齢構成の極端な偏りへの対応の困難性」が含まれていない点について、「『制約条件』として財政状況の悪化と年齢構成の偏りを言っているにもかかわらず、提案文書では、法人に相応しい、意欲・能力・実績を反映する制度としか書いておらず、これはミスリーディングだ。これだけではまるで固有職員の給与が上がるようにも取れる。財政難への対応のための変更というなら正直にそう書くべきだ」と指摘しました。当局側の回答は「『大学・病院の実態に相応しい人事給与制度』という部分で含意している。制約条件だから敢えて書かなかった」という納得しがたいものでした。
また、「財政難で制度を変えざるを得ないというなら、財政難に至った責任の所在は?」という追及に対しては明確な回答はありませんでした。
さらに、最後に「本当によく仕事をやっている若手・中堅に光を当てるための制度だ」という発言があり、「評価」結果の高い一部職員を優遇し、その他の職員との間での処遇較差の拡大を志向する制度であることが明言されました。
以上が、2月6日の交渉における概要です。その他、書ききれなかったこともありますが、法人の提案内容を裏付けるバックデータの提供が、口頭によるごく一部のもの以外は無かったこともあり、今回はこの程度としたいと思います。
Ⅳ.組合の見解
- 法人財政の急速な悪化と、法人固有職員の年齢構成が極端に偏っていて今後の平均年齢の上昇により市職員と同等の処遇は維持できないという「制約条件」を前提とした提案である以上、今後、中長期的に法人固有職員の処遇を「引き上げない」ための制度変更であることは確実です。しかも、その枠内で(月例給の上位昇給を廃止した上での)勤勉手当の「上位評価者」への優先的配分ですから、勤勉手当がB,C評価(8割程度)の場合、月例給の上位昇給による埋め合わせの機会も無く、これまでよりも処遇が低下することになる可能性が高いでしょう。
- また、勤勉手当でのA評価への配分増と言っても、交渉の中で口頭で示された額の変動は、これまでの「A評価者の全員分」で年間総額260万円程度の配分額が2670万円程度(給付人数は現在の4倍)になるというものです。モデルケースの数値が示されていないため不確実ですが、上位昇給廃止分等の3つのマイナスと比較して大幅に大きな額となるとは考えにくいところです。
- そのような少しばかりの額の変動がインセンティブになるかも疑問です。月例給の上位昇給によるリベンジのチャンスも無いB、C評価者のモチベーションが上がらないのは確実として、A評価者に関してもそうはいかないだろうという反証として行動経済学の研究の例を挙げておきます。
慈善募金の寄附集めを使った実験で、①慈善事業の意義を十分に説明してから募金集めをしてもらったグループと②慈善事業の意義のインプットに加えて各人が集めた募金額の1%のボーナスを支払うことを約束したグループ、③各人が集めた募金額の10%のボーナスを支払うことを約束したグループ(慈善事業の意義に関する説明なし)という3グループに分け、どのグループの成績が最も高く、どのグループが最も低くなるかを検証したものです。
さて、みなさんはどうお考えになるでしょうか?
最も高いパフォーマンスを挙げたのは①のボーナス無しのグループで、最も低かったのは②のグループでした(『その問題、経済学で解決できます。』ウリ・ニーズィー、ジョン・A・リスト)。実験の結論は、金をインセンティブにするならそれはたっぷり支払われなければならないというものです(組合が賃金の話をしているので、ボランティア活動では活動意義を十分に理解した上での無報酬が一番いいという話は除きます)。加えて勤勉手当のA評価の上乗せ分の原資は、もともと他の形で受け取っていたか、受け取る可能性のあったもので、別に今までの給与に純増で上乗せされるものではありません。インセンティブとしてはさらに効果は怪しくなります。 - 今回の変更により法人化時の「法人固有職員の処遇は市職員に準じる」という合意が反故になった場合、これまでであれば勤勉手当(賞与)に関しても「民間企業との較差に基づく市人事委員会勧告による横浜市の給与」に準じていたものが、民間企業同様、「法人の業績」次第で如何様にも、簡単に動かすことができることになります。むしろ本筋はこちらの方で、今回の提案で来年度の給与が幾らくらい変わるかよりも、法人化時の合意が反故になることで、以後は給与・給与制度共に経営側がいつでも好きなように変更できるようになってしまう、ことに賞与とは本来そういう性格のものだという事こそが最大の問題です。
- また、月例給の上位昇給より勤勉手当のA評価の方がインセンティブとなるという根拠も意味不明です。それに繰り返しますが、勤勉手当の成績率・分布率の拡充は「今年度の横浜市における住居手当の1600円の引き上げに固有常勤職員については追随しない」、「月例給の上位昇給の廃止」、「勤勉手当の算出基礎からの扶養手当の除外」という3つ措置により浮いた資金を廻すことで実行されるもので、人件費のアップで達成されるものではありません。つまり、勤勉手当のA評価者にしても、その増分の原資は「自分も対象であった可能性のある月例給における上位昇給分」と「従来通り市に準じていれば自分が借家・借間住まいの場合確実に支給された住居手当の増分」、そして同じく確実に自分が受け取っていた「勤勉手当の算出基礎からの扶養手当の除外」です。何やら朝三暮四のような話になってきた観もあります。
- 法人化時の合意について「あくまでの発足時の合意」と主張していますが、合意自体の有効期間を特に定めていない以上、その変更はあくまでも労使の合意に拠るべきで、法人化以後10年以上が経過したからと言って合意が自動失効しているがごとき主張は受け入れられません。
- 交渉期間について「誠実に」と言っていますが、人事給与制度、それも労使合意に基づき法人化以後10年以上続けきてきたものを実質1か月余の交渉で決着しようとしている時点で「誠実」とはとても言えません。
- 前回も書いたように、法人固有職員の年齢構成の極端な偏りは経営側の人事政策の結果であり、誰も何もしていないにもかかわらず自然発生したわけではありません。毎年、採用計画が立案され、承認され、実施された結果です。他の公立大学法人の中には、年齢構成の極端な偏りを回避するための計画的な採用を行ったところも複数存在しています。当然ながら、その責任をまず問うことが必要です。経営責任無き経営は近代社会においては許されるものではありません。
- 「法人財政の急速な悪化」についても同様ですが、それ以前の問題として、これも前回指摘したように、一方で「財政難」を言い、固有職員人件費の抑制に着手しながら、もう一方では4月からの次期中期計画では様々な新規事業、組織新設・増設が目白押しとなっています。右手のバケツには「水が無いからもう入れるのはやめよう」と言い蛇口を閉めながら、左手は穴の開いたバケツに水を注ぎ続けるがごとき経営は到底合理的なものとは言えません。
- 関連して、本当に経営難なのかという問題もあります。法人化時に「もっと経営努力を」ということで年額で30億円余削減された運営交付金ですが、次期中期計画の期間中の運営交付金予定総額は、現行第2期中期計画の約580億から約650億へと大幅に増額される模様です。労働者の権利保護が法によって与えられた使命である労働組合としては、本当に経営が悪化し、例えば(公立大学の経営においては非現実的な仮定ですが)キャッシュフローが悪化、運転資金が枯渇しそうなどという事態であれば、他の項目と同様に人件費についても削減の対象となるという事は否定しませんし、少なくとも交渉自体には応じるでしょう。しかし、そうではなく、ただ、他の事項に優先して人件費を削減しようということなのであれば、法に与えられた使命と組織における公平・公正性のために当然同意は出来ません。あるいは、運営交付金の大幅な増額を受けても苦しいほど経営状態が悪化しているというのであれば、それはやはりまず第1に経営責任の所在の問題、そして更なる経営状態の悪化につながるであろう拡張政策は一体どういう事かという問題になります。
- また、本学の場合、「評価に基づく処遇」自体がどこまで公平、公正に行いうるかという点でも問題があります。法人化以降、2014年度の固有常勤職員任期制廃止まで、職員組合は毎年複数持ち込まれる「上司との折り合いが良くない ⇒ 日常での軋轢 or 低評価 or ハラスメント ⇒ メンタルを中心に健康を害する ⇒ 任期更新が不可とされる or 1年などの短期契約を提示される」という相談への対応に追われてきました。ひどい時には5,6件が同時進行していたことさえあります。上記のようなトラブルは任期制の廃止により連鎖の最後の部分が無くなったことで一見沈静化していますが、上司との人間関係の軋轢等の問題は依然として存在しています。組織文化にまで及んだ影響の修正は容易なことではありません。
- この点もデータの提示が無いと確実には言えないのですが、来年度に関しては仮に当局側主張の通り実施されたとしても、勤勉手当の評価による差はそれほど極端なものにはならない可能性が高いと思われます。しかし、これまでの当局側の感触や法人化以降の経営サイドの態度・傾向、それに④で指摘した根本的な問題点からすると、その後、上位評価者に対する傾斜配分を大きくしていく可能性は高いであろうと予測されます。しかし、本学には上記のような評価に関する組織的な問題があり、また、仮にこれが「普通の組織」レベルに改善されたとしても、メンバーシップ型人材によって構成された組織における評価はもともと極めて難しい問題をはらんでいます。個別のジョブは明確でなく、メンバーシップの集団内においては共同して仕事を進めることが良しとされ、ジョブに基づく専門性はむしろ忌避されます。そのような仕事の在り方は個別の厳密な評価には馴染まず、評価による処遇の差が大きくなるほどメンバーシップ集団内での軋轢を強めることになります。大企業の成果主義の失敗は、メンバーシップ型の人事システム内にシステムと馴染まない「個別社員の成果」による評価を持ち込み、それに基づく処遇の差を拡大した点が大きく影響しています。逆に、処遇の差を小さくとどめても、それは③で指摘したように、コストをかけて制度・運用を変えることに見合うほどの成果が得られない可能性が高いでしょう。であれば、余計なことはせずに20代、30代職員の住居手当を法人化時の合意通り9500円から19600円に引き上げる方が制度変更や評価のコスト、リスク無しに職員の処遇を改善できるわけで、むしろ効率的であるとさえ言えます。
- 今回の提案通りになった場合、これまでも市派遣職員、法人固有常勤職員、契約職員、嘱託職員、アルバイト、派遣社員と複雑な人的構成であった各職場が、これまでは同一であった人事給与・評価制度面で市派遣職員と法人固有常勤職員が分離、別建てとなりさらに複雑になります。時間的コストも含めさらに非効率化する可能性が高いでしょう。
- そもそも論の一部として、市の住居手当の引き上げに追随する資金があるのであれば、合意に従いそうすべきです。もともと市が昨年度、20代、30代の住居手当を倍額の18000円に引き上げたのは、横浜市やその近辺において借家・借間の家賃が高く、給与も抑制されている中、せめて9000円から引き上げようという意味があったはずです。それでも横浜市やその近辺において借家・借間の家賃を賄うには到底及ばず、今年度の引き上げ額1600円を加えて19600円としてもそれは同様です。ましてや現在の法人固有常勤職員の月額9500円では住居費のごく一部しか賄えません。
- 考課制度については、今回は変更せず29年度中に見直すとしています。給与制度と考課制度はセットで機能するもので、考課制度はどう変えるか分からないが給与制度は前倒しで変更するので同意しろというのは組合としては到底納得できるものではありません。どのような考課制度に基づき給与制度がこう変わるという全体像が明らかにされて初めて本来の交渉が可能になるものです。
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