2014年12月4日木曜日

「高度専門職」の大学設置基準への位置づけについて(1) -文科省が制度化を急ぐ理由?-

 昨年12月16日付の組合ニュース【公開版】で、当時審議が行われていた中教審大学分科会「大学のガバナンス改革の推進について」(審議まとめ)について紹介したことがありました。

審議まとめに含まれていた内容のうち、学長への権限集中と教授会の権限制約については、6月に当初の予定を超え学校教育法の改正という形で現実化されましたが、その他の事項については宿題として残された形となっていました。それらのうち、昨年12月16日付の組合ニュース【公開版】でも触れた教員、職員とは別の新たな身分として「高度専門職」を法令上に位置付けるという問題について、10月以降、中教審大学分科会大学教育部会において急ピッチで検討が行われています。

大学教育部会の複数の高等教育研究者を含む委員の反応としては、「趣旨には賛成、しかし拙速な法令への位置づけは疑問」というのが大勢のようでしたが、これに対して文科省は非常に積極的で、委員たちの懐疑的なスタンスにも関わらず、年度内に大学設置基準を改正、「高度専門職」を制度化したいと明言しています。

このように文科省が教員、職員に次ぐ新たな第3の身分としての「高度専門職」の創設を急ぐ理由としては、幾つかの可能性が考えられます。

第1に、現在の教育政策をめぐる政治的状況では、政権、またその背後の経済界の強い意向を反映した「大学のガバナンス改革の推進について」(審議まとめ)に含まれている内容をうやむやにするのは不可能であろうと思われます。そして「スピード感」という言葉が多用される政権下、学校教育法改正から遅れて年度を超すことは望ましくないとされているのかもしれません。

第2に、当初の予定を超え学校教育法の改正にまで踏み切って学長への権限の集中を行ったわけですが、実際にトップダウンを機能させるためにはそれを支えるスタッフの存在が不可欠であり、来年4月1日よりの改正法の施行により現実に動き出す学長トップダウン型経営のための補助装置として年度内に制度化する必要があると考えられているのかもしれません。「アメリカ型」の大学経営を支える装置の一つが100種類を超えるともいわれる各種の専門職の存在であり、「アメリカ型のトップダウン」による大学改革(本当にアメリカの大学が学長の一方的トップダウンの下にあるかどうかはまた別の問題ですが)が標榜されていることを考えると充分ありそうな話です。

そして第3に、社会問題化しているバイオ系を中心としたポスドク問題対策の一つ、新たな雇用の受け皿として「高度専門職」を活用しようとしている可能性も考えられます。

以上のうち、実は一番関係の薄そうな第3の問題が設置基準改正を急がなければならないもっとも切実な理由となっている可能性があります。というのも、9月に審査結果が発表された「スーパーグローバル大学創成支援事業」が今年度以降のポスドク問題を一層深刻化させかねないからです。

周知のように、同事業は選定大学におけるこれまでとはレベルの異なる「グローバル化」を求めており、その柱の一つとして外国籍教員等の大幅な増加が含まれています。採択37大学のうち旧帝を中心とする「トップ型」13大学だけで、平成35年度までに外国籍教員を現在に比べ約2600人、また海外で学位を取得した日本人教員を約1000人増加させることになっています。教員の総数も約900人増加させる計画になっているので、その総てが国内大学院で学位を取得した日本人研究者と代替されるわけではありませんが、国内大学院で学位を取得した日本人研究者のポストが現状よりさらに大きく減少することは確かです。これに残りの「グロ-バル化牽引型」24大学、「スーパーグローバル大学創成支援事業」から漏れた有力国立大学、中堅以上の私立大などを合わせると、従来であれば「国内大学院で学位を取得した日本人」が就任していた可能性が高い教員ポストが10年間で数千という規模で減少することは確実であり、さらに2018年以後の18歳人口の減少期への再突入を考慮すると、事態は控えめに表現しても「非常に深刻」という様相を呈することになるのではないでしょうか。

しかし、これに「高度専門職」という、職員よりは専門性や処遇が保証されそうな職種を用意することができれば、状況はましになる可能性が出てきます。「学長トップダウンによる大学改革」のためという理由であれば、現在のURA同様に補助金を付けることも可能になるでしょうし、もしかすると数千のポストを用意することすら出来るかもしれません。

さらに、国内大学の教員ポストの少なからぬ割合を外国籍教員や海外大学院で学位を取得した日本人研究者が占める傾向が広く知られるようになれば、既に現れ始めている国内大学院への進学をためらうという傾向が一層顕著になるかもしれず、もしそのようなことになれば、将来的には(正式な政策転換によるのではなく)大学院進学者の減少によってポスドク問題が“自然に”解決されるという素晴らしい(?)未来すら訪れるかもしれません。

もっとも、以上のポスドク問題と「スーパーグローバル大学創成支援事業」、「高度専門職」の関係については、いかなる公開文書にも、また、大学教育部会の議論にも一切出てきてはおらず、すべて私の推測にすぎません。単なる考え過ぎ、あるいは高等教育政策の偶然の交錯でしかないかもしれません……。
(菊池 芳明)

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