Ⅰ.2月下旬以降の追加情報について
まず、2月17日以降の交渉で追加開示された、今回提案に関連する組合側から要求した経営関連情報です。
1.現行給与体系(平成28年度時点)と当局側提案の新制度の移行した場合の平成29年度のモデル賃金の差額について
想定対象者(28年度時点):年齢34歳(1級~3級の事務職員の平均年齢)
4大卒業後、新卒で入職。12年目
過去の昇給はすべて標準昇給
地域手当、期末・勤勉手当以外の手当ては含めない
28年度の年収:5,048,749円
↓
29年度の年収:
現行制度①:5,192,891円(標準昇給+勤勉手当B×2回の場合)
現行制度②:5,266,858円(上位昇給+勤勉手当B×2回の場合)
新制度 :5,273,881円(標準昇給+勤勉手当A×2回の場合)
この数字はあくまでも仮定を重ねたモデル数値であり、その点でもとより限界のあるものです。その上でいくつか解説を付け加えると、第1に、28年度と29年度の比較では固有常勤職員人権費の総額はほぼ同一で、そこで当局側提案新制度の(標準昇給+勤勉手当A×2回)の取り分が増えるという事は、その他の人への配分額が減るという事を意味します。また、このモデル自体が「上位者」と「上位者」の比較限定です。第2に、当局側の提示した現行制度①、②の条件部分を見れば判るように、現行制度の比較対象は最も評価が高い場合(上位昇給+勤勉手当A×2)ではありません。それに対して当局側提案新制度においてモデルとして提示されているのは最上級の評価を得た場合の数字です。第3に、最も該当者が多いはずの標準的なケースと標準的なケースの比較ではありません。第4に、28年度と29年度の比較では固有人件費の総額はほぼ同一で変化はありませんが、30年度以降については状況が異なります。この点については、以下の2.で述べます。このように、このモデル賃金比較については解釈に注意が必要です。
2.横浜市と同様の給与条件とした場合と当局側提案新制度の場合のモデル賃金差額について
*この項目は交渉に同席した横浜市従本部役員からの要求で、①と同様、個人のモデル賃金の比較を求めたものですが、当局側は事務職員人件費総額への影響額を出してきました。しかしながら、結果的にはかえって今回の制度改革のマクロの影響が分かりやすく表れたものとなっています。また、数値は本俸の昇給分と勤勉手当のみを対象として算出したもので、現在月額1万100円にまで市との格差が開いている住居手当は含まれていないようです。第3期中期期間全体における事務職員人件費について、横浜市と同様の運用を行った場合と当局側提案の新制度に移行した場合の総額の差: 市と同様の運用を行った場合に比べ59,600千円の減
第2に、法人の最高経営責任者である理事長に対して直接団体交渉を要求し、3月1日に実現しました。これは、これまでの組合ニュース、職場集会でお伝えしたように、当局側の主張に辻褄が合わない点や理解に苦しむ点などがあり、担当課レベルでの交渉ではらちが明かないと思われたこと、また、それらのうちいくつかについては最終的には固有常勤職員の処遇についてどう考え、経営全体の中でどう位置づけるのかという経営判断の問題に帰着することから法人最高経営責任者である理事長の見解を直接尋ねるしかないと考えられたことから要求したもので、その意味では、交渉の決着を目指す通常の団交とは意味合いが異なるものです。
この席で、今回の給与制度変更提案に関連して理事長からあった発言は、①次期中期計画の最大の眼目は6年で法人収支の均衡を実現すること、②職員の人事制度については、「持続可能で」かつ「モチベーションを高める」、「働き方を反映できるメリハリのある制度」を作りたい、③きちんとやれば人件費は適切な抑制基調で、合理的な範囲に収まるのではないかと思う、などでした。
これまでの情報に今回の情報を合わせると、今回の制度変更は、仮に当局側提案通りになった場合、今年度に関しては総額内での職員間の配分の変更ですが、来年度以降は職員人件費の総額自体の抑制につながるものであることが明らかになりました。本給における上位昇給の廃止という、その他の手当の算定の基準(月額給与に一定の係数をかけて算出する)となる部分に関する抑制措置なのですから、当然と言えば当然の結果ではあります。そして、「総額抑制」とそれによる不満を「評価上位者への配分を一時給において増額する」という形で(言い換えれば普通~下位評価者への配分を減らすことで)解消しようという、民間企業でしばしば採用されるスキームであることが明確になりました。これらに関する見解は以下の中で述べることにします。
Ⅱ.固有常勤職員給与体系変更問題に関する組合の見解
以下は、これまでの交渉、上記の2月末以降の情報も踏まえての職員組合としての今回の問題に関する見解です。
1.まず今回の問題について、組合としては当局側が提案すること自体は拒否しないというスタンスを取っているため、1月末から3月末にかけて当局側提案およびその根拠となる各種の経営上の数値について説明を受けてきましたが(根拠となる経営上の数値については本来、提案する当局側が準備し提案と同時に示すものですが、それがなかったために組合側から要求したものです)、それだけで当局側が提示してきた交渉期間が尽き、それを受けて組合としての提案に対する対応を検討しようとするところで年度が終わってしまい、とりあえず暫定措置について合意して現在は交渉再開を待っているという状況です。このため、現時点での組合としてのスタンスは法人化時の「法人固有職員の処遇は市職員に準じる」という合意を順守すべきであるというものから変わったわけではありません。
これは、①今なお管理職を中心に多くの市職員が大学に派遣され、固有職員と同一の職場で同一の業務に従事しており、同一職場での同一業務には同一の賃金が支払われるべきであるという原則、②労使間の重要な合意の変更には説得力のある根拠とこれまでの経緯を踏まえた充分な交渉に基づく新たな合意の形成が必要であること、また、③市職員の給与自体は国家公務員と同様に市内の民間との給与格差に基づいて変動するという明快で合理的な原則に基づいており、これに準じることは原理的に明快で合理的であり、かつ給与の決定というコストを要する作業を省略できるという経営コスト的な意味でもメリットがある等の理由に基づくもので、可能な限り維持すべきものと考えます。
また、関連して市職員と月額で10,100円にまで拡大している20代、30代の固有常勤職員の住居手当についても、このまま放置すべきではないと考えます。市職員に準じるという原則上の理由からだけでなく、月額9500円という現在の額(昨年夏の合意通りに実施されれば30年度からは月額1万円に引き上げ)は、家族向けであれば10万を超える市内の賃貸相場からすればあまりにも少額です。
2.これまで、組合ニュース等で繰り返してきたように、当局側は「市職員に準じるという」法人化時の合意についてこれ以上の維持は困難としながらも、それに代わる人事制度の設計、運営の原則について示していません。一連の交渉の経緯において明らかになったのは、どうやらそのようなものは当局側にも存在していないということでしたが、その場合、「市に準じる」が「市に準じない」に変わるが「どうするかは分からない」という、組合から見れば歯止めだけがなくなり新たなブレーキは存在しないという状況につながりかねない点を強く危惧します、仮に市に準じないのは今回の提案部分のみで、他はそのままにするというのであれば、前提としてその点(変えない部分)について明確にする必要があります。住居手当の格差は拡大し、それは放置したまま今度は上位昇給の廃止・勤勉手当への配分増ということになれば、今後もなし崩しに処遇の悪化が続く可能性があります。
3.最初の提案時から現在に至るまで、当局側の提案理由の第1は「法人財政の悪化」です。しかしながら、この4月より始まった第3期中期計画は逆に拡大型の計画であり、市からの運営交付金も大幅増になる計画となっています。民間の営利企業であれば、「投資増」⇒「生産増」⇒「販売増」⇒「営業収益増」というストーリー(上手く行くかどうかは別として)を描くこともあり得るでしょうが、大学という組織(附属病院も含め)は本質的に非営利組織であり、その活動内容からして利益を上げることに向いているわけではありません。今回の中期計画は、そのような本質的に利益を上げにくい大学という組織において、さらに財政難を加速しかねない内容を無造作に放り込んでいるようにも見えます。
一例をあげると、来年度にデータサイエンス系の新学部の設置が決まっていますが、入学定員60人の(コースでも学科でもなく)「学部」を作ってペイするかどうかは、私学関係者であれば説明の必要すらないレベルの問題です。しかしながら、学内においてこの点がどの程度正確に認識され決定されたのかは全く不明です。本学の場合、横浜市から私学の授業料との差額分を運営交付金として受け取る仕組みになっていますが、それを合わせても私学並の収入で私学がペイしない規模の「学部」を作ってもどうなるかは自明のことなのですが。
念のため付言すれば、組合は別に「新たな社会的ニーズ」に対応するような活動を大学が行うことに反対しているのではなく、「財政難」「危機的状況」を言い立て、そのために給与体系の変更の必要があると提案しながら、さらに「財政難」を拡大するような計画、この場合で言えばその一例として現行法令下では最もコストのかかる「学部」という組織形態をなぜ選ぶのか、合理的には理解が困難であると指摘しているのです。何とか解釈しようとすれば、①当局側が組合に給与体系の変更を呑ませるために実態よりも大げさに「財政難」と言いたてている、②過去の組合ニュースでも指摘したように、全体の財政枠組みの中で新組織や新事業を計画するのではなく、まず経費は考えずに新組織や新事業を計画、その後、それ以外の部分で削減を行い全体としての辻褄を合わせようとするという手法をとっている( https://ycu-union.blogspot.jp/2017/02/3.html )、といったあたりが考えられますが、①だとすれば組合としては法人化時合意の変更、固有職員給与体系の変更は吞めないという事になりますし、②だとすれば、職員人件費をそのような大雑把な経営手法の辻褄合わせの犠牲とすることは組合の立場からは容認しがたい上に、そもそも辻褄が合う保証など無いではないか、今後一体どうするのだと指摘せざるを得ません。
また、本当に「財政難」なのだとすれば、そのような事態を招いた過去の「経営責任」も看過できません。以下は、リーマンショックの頃だったかに見かけたエスニック・ジョークですが、組合としては当然、そのような展開は(実際に日本企業においては珍しくもないだけに、なおのこと)笑って受けいれることは出来ないものです。
「A社が社運をかけたあのプロジェクト、駄目だったのか?」
「ああ、大失敗に終わったそうだ」
アメリカの場合;
「これでA社の上層部が一掃されるな」
日本の場合;
「これでA社の平社員が大量にリストラされるな」
さらに、横浜市からの運営交付金は実際には市の各年度の財政見通しに影響を受けており、過去の例を見ても必ずしも中期計画の策定時の想定通りに交付されるわけではありません。市庁舎の新設や統合型リゾート(IR)がどうとか、オリンピックでどうのとかいった話も考慮すると楽観する気にはなれません。その一方で支出の方は、計画通りに実施すれば計画通りに出ていくことになります。
もう一点付け加えると、最初に紹介した理事長の「次期中期計画の最大の眼目は6年で法人収支の均衡を実現すること」という発言にもかかわらず、第3期中期計画における収支計画は、フローベースで9億円以上の赤字で、それを積立金の取り崩しで埋める計画になっています。これも腑に落ちない話で、例えば次年度の話であれば短期間での対応は困難で当初から赤字を想定せざるを得ないこともあり得ますが、6年間に渡る計画で、しかも赤字が問題になっていてその解消が優先目標というのであれば、フローベースでも均衡を目標とする方が自然です。これまでの交渉での遣り取りから、組合としては、この9億円以上のフローベースの赤字が第3期中期計画において達成すべき「赤字削減目標」であり、Ⅰ.2.で書いた、今回の当局側提案通りに固有常勤職員の給与体系を変更した場合の59,600千円の削減額はその一部、かつ第1歩ではないかとの疑念も持っています。
http://www.yokohama-cu.ac.jp/univ/corp/plan/tt534t000000065u-att/dai3ki-cyuki-keikaku.pdf
4.法人財政全体の問題とは別に、中長期的に固有常勤職員人件費を考えるうえで問題になるのは、(これも繰り返し指摘していますが)過去の偏った採用方針・活動の結果、著しく若年層に偏ってしまった(ボリュームゾーンは恐らく30歳前後)年齢構成の問題です。彼らの年齢が上昇していくにしたがって生活に必要な資金は増加していきますが(住宅ローン、学資等)、逆に人件費が少なく済むはずの現時点でさえ固有職員人件費が負担だというのでは今後どうなってしまうのでしょうか。このような年齢構成になったのは、現状につながる採用計画を立て、実施した結果であり、それは言い換えれば過去の経営責任の問題です。その部分は事実上不問に付されたままで結果の辻褄合わせが当の固有職員に転嫁されることは、経営モラルの観点からも受け入れがたい話です。
5.給与体系の変更を提案しながら、個々の職員に対する実際の適用額の決定を左右する人事評価制度については、今年度に検討を行うとなっています。本来、両者は同時に検討され提案される必要があるものです。
この点に関連して、法人化以降、特に全員任期制廃止に至るまでの約10年の間、組合は毎年多発する個別の雇用トラブルへの対応に忙殺されてきました。これは任期制の存在が大きな原因(上司との折り合いが悪い場合や職員が病気になった場合に、簡単に職員の任期を短期に設定したり、任期更新を行わず雇止めにして問題を“無かったこと”にしようとしたりする)ではありますが、同時に人事評価があまりにも上司・部下間の人間関係に影響されたり、恣意的、不公正に行われているのではないかと思われるケースも多く経験してきました。民間企業の「成果主義」の顛末を見ても、仕事を評価する、ことに日本型組織において個人の仕事を“客観的に”評価することは極めて困難で、それが人件費縮小とセットになると、とかく上司の意を“忖度する”行動の誘発や、その組織において本来求められる能力・見識よりも“組織内処世術”に長けた人間が昇進するといった「組織の病理」が起こりがちで、その危険は過小評価できません。法人化時の経緯から組織文化の面で(現理事長の一般教職員との対話を重視する姿勢により変わりつつある面もあるとはいえ)警戒すべき点が多い本学においてはなおのことです。
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