2016年10月11日火曜日

公立大学をめぐる国家財政システム 終わりの始まり?(1)

 昨年度は、例の「国立大学人社系廃止通知」や、私学の経常的経費に占める私学経常費補助金の割合が44年ぶりに10%を割ったことが先日の朝日新聞等の報道で明らかになるなど、大学関係者にとっては「とうとう始まった」と思わせられる出来事が相次ぎました。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/kokuritu/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2015/05/27/1358297_15_1.pdf
http://www.asahi.com/articles/ASJ9L66FSJ9LUTIL01H.html

また、実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の創設に関する検討がさらに進み、
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo13/sonota/1373992.htm
その影響もあって、私立大学、高等専門学校、専修学校、それぞれの在り方や振興に関する検討がおこなわれるなど、各種の見直しは高等教育システムのほぼ全領域に渡っています。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/073/index.htm
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/067/gaiyou/1370711.htm
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/034/index.htm

そのような中、公立大学に関しても公立大学法人を包摂する地方独立行政法人制度の改革に関する検討が行われ、昨年末に報告書が取りまとめられていますが、内容的には財務や附属学校設置等で国立大学法人より狭くなっている業務範囲を国立大学法人並みとするというもので、公立大学自体について大きな影響を及ぼすものではありませんでした。
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/chidoppou/index.html

ところが、来年度の教育予算の関係資料に目を通していて、公立大学というセクター自体の在り方に大きな影響を及ぼしそうな内容が含まれていたことに気が付きました。

今年の5月に財務省の財政制度等審議会で取りまとめられた①「『経済・財政再生計画』の着実な実施に向けた建議」の中に「地方行財政改革関連」として「歳出効率化に向けた業務改革で他団体のモデルとなるような改革を行っている団体の経費水準を基準財政需要額の算定基礎とする取組み(トップランナー方式の導入)を推進」することが書かれており、「公立大学運営」に関しても29年度以降にその対象とすることが明記されています。この内容は、昨年末の経済財政諮問会議の②「経済・財政再生計画改革工程表」に「先進的自治体の経費水準の基準財政需要額算定への反映等」として含まれており、そこからさらに昨年6月の③「経済財政運営と改革の基本方針2015」(閣議決定)の「例えば歳出効率化に向けた取組で他団体のモデルとなるようなものにより、先進的な自治体が達成した経費水準の内容を基準財政需要額の算定に反映すること等によって、地方の歳出効率化を推進する」という記述まで遡ることが確認できます。
http://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/zaiseia280518/index.htm
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/report_271224_2.pdf
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2015/2015_basicpolicies_ja.pdf

②と③については「公立大学」という言葉が直接使われていなかったため見落としていましたが、要するに、地方交付税における算定の基礎となる項目に含まれている「公立大学運営」について、これまでの分野ごとに定められた単価費用(例:人文科学系学生1人当たり441千円)を「効率的な運営」を行っている公立大学の実態に合わせて変更しようとするものです。
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kouritsu/detail/1284531.htm

もちろん、地方交付税自体は総務省(旧自治省)の管轄であり、財務省によって主導されたこれらの方向がそのまま現実化するとは限りませんが、状況から見ても何の影響も受けずに済むとも思えません。

国家の必要に応じて国立大学が整備され、その国立大学による供給と社会的需要とのギャップを主として私立大学が埋めてきたという高等教育システムの歴史の中、公立大学の存在意義とは何かという問題は公立大学、そして公立大学研究において重大なものであり続けてきましたが、自治体の独自税収と地方交付税交付金によって支えられた、比較的低額の授業料で享受できる国立大学に準じた教育環境がその主要なものであったのは否定できないと思われます。

今回の「トップランナー方式の導入」という方向性は、その環境を支える地方交付税交付金の在り方に大きな変更を迫るものであり、独自財政基盤の弱い大多数の自治体とその設置する公立大学の在り方に重大な変更を迫る可能性があります。

次回は、公立大学における「先進的な自治体が達成した経費水準」のいくつかの実例を紹介し、それが標準的な経営の基準とされた場合の影響について考えたいと思います。

(菊池 芳明)

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