2012年11月21日水曜日

横浜市立大学における事務局職員体制の現状等について(1) 人件費比率の呪縛

 7月5日付の組合ニュース【公開版】でお伝えしたように、7月4日に本学の職場体制等について協議を求める要求書を提出しました。
 本学の場合、医療系を除く全職員の任期制、大学経営に専門性を持たずかつ短期間で異動する一方で、他大学に比べ強力な権限を有する大量の市派遣・OB幹部の存在などの構造的な問題があり、雇用紛争、退職者やメンタル患者の続発、ハラスメント、業務の非効率性といった各種問題の発生、深刻化につながっています。
 今回は、職場体制等の現状とそれらの設計、運用等に関する基本原則を明らかにすること、さらに特に問題の発生しやすい環境条件の職場の改善についての協議を行なうことを目的として要求を行ったものです。 (7月5日組合ニュース【公開版】より)
 その後、9月26日付の組合ニュース【公開版】で紹介したように、9月13日にようやく回答がありましたが、回答内容に関連し追加で確認を求めたため、その確定を待っている状態でした。今回、総ての項目について一応の回答が得られたため、ご紹介します。量が多くなるため、分割して掲載します。

7月4日付本学の職場体制等についての協議要求書に対する回答および質疑内容

1.附属病院を除く本学事務組織に関して、その職場体制の構築、職員配置は当然何らかの統一された原則、方針に基づいて行われているものと考えるが、その点につき説明を求める。

回答: 中期計画における病院部門を除き人件費比率53%未満(人件費は役員、常勤・非常勤の教職員及びアルバイトの合計)という数値指標を前提に、①効率的な執行体制、②新規業務への対応、③業務の質の向上、④人材育成という4点に基づき、さらに各所属の係長等との協議に基づき執行体制を決めている。

(質疑)

組合: 従来、本学事務組織に関しては、学内で“2階”と通称される、総務、企画、人事、財務、経理等の部門の管理職の大半が横浜市よりの出向派遣組である一方、学務教務系に関しては、第1期中期計画期間中においては、その長である部長職以下、管理職、職員は中途採用者も含め固有職員が占めるという方向であったと理解しているが、第2期中期計画期間に入ると、学務教務系に関しても、部長が市派遣となり、更に今春には横浜市退職者が大量に学務・教務系の課長、係長として着任している。また、第1期中期計画には数値目標が存在していた市派遣職員の段階的解消について第2期中期計画では数値目標がなくなっている。人事、特に管理職人事に関し、何らかの方針変更があったということか?

当局: 特に考え方、方針が変わったという事はない。学務教務系の管理職への横浜市退職者の採用に関しては、例えば、トラブルのあった部署に対して横浜市でコンプライアンスの経験のあった人をその経験を買って採用したものであり、結果的に適任者として採用したということで横浜市の人間を増やすという方針ではない。
 また、固有職員の管理職に関しては、現時点では経験の問題があり、大学としては将来の固有職員の内部登用による管理職化を考えている。

組合: 固有職員の採用は近年、新卒者の採用が中心で、20代が中心と思われる。だとするとこれらの層が管理職となるのは相当先になるのではないか?

当局: 30代の人も結構いる。

組合: 相変わらず固有職員のさみだれ式の退職が続いているが、組合が承知している範囲では、これら固有職員の退職者の穴埋めに関し、派遣会社よりの派遣で対応しているケースが目に付く。固有職員の穴を派遣で埋めるのは無理があるのではないか?

当局: 基本的には、固有職員の穴埋めは固有職員でと考えている。ただ、固有職員の退職が年度途中になるケースが多く、年度途中での対応は難しいため一時的に派遣で対応している。翌年度には固有職員で埋めるという基本的方向である。

組合: 先程、非常勤職員、アルバイトを含め人件費比率53%未満という話が出たが、現況はそれに近い数字なのか?

当局: 昨年度は53%にかなり近く、今年度はオーバーしそう。

組合: 人件費比率の計算式は?

当局: 損益計算書の 人件費/経常収益 を使用している。

組合: 病院は別でかつ医学部の教員を含めての53%未満というのは相当厳しいのではないか。

(コメント) 附属病院部門を除く人件費比率53%未満という指標が人事政策上の大前提であり、かつ現状がそれに極めて近い水準あるいはそれを上回りそうな状態にあることが明らかになりました。因みに、いつの間にか法人化時に遡って財務諸表が公表されていましたので(http://www.yokohama-cu.ac.jp/univ/corp/finance/finance.html)、そのセグメント別情報を使用して人件費比率の算出が可能になっています。平成23年度の病院部門を除いた数値を計算してみると約52.8%、確かに53%の目標値に対しぎりぎりです。同様の方式で法人化初年時平成17年度の数字を計算すると約55.2%になります。

 固有職員の退職が相次ぐ一方で、派遣会社からの派遣が年々増えているという印象を受けていましたが、どうやら人件費比率が絶対的な人事政策上の前提となっており、現状がその上限かオーバーしそうという環境からそのような対応になっている可能性が高そうです。

 この人件費比率の問題は大学の将来という中長期的な観点からは極めて深刻な問題を孕んでいます。まず第1に、本学の固有職員は法人化後の採用で20代中心、人件費は比較的低額で済んでいるはずです。第2に、教員に関しても法人化前後に大量の教員が辞職し他大学に移っていてかつその分の穴埋めはあまりしていない上に、団塊世代の退職もあり、こちらも人件費圧力は相当軽減されているはずです。ただし、次回で紹介しますが、人件費を大学が負担している横浜市派遣管理職並びに横浜市OB管理職については増加を続けているように思えます。これらの層の1人当たり人件費は、若手中心の固有職員に比べれば相当高額ではあるはずです。このように、全体としては人件費圧力が相対的に低い経営環境にあると思われるにもかかわらず、現状で既に人件費比率の上限に近いということは、現在の人員数を前提にした場合、1人当たりの人件費、つまり給料を今以上に上げるわけにはいかないという話になるからです。現在20代の固有職員に関しても、いずれは30代、40代となります。教員についても、通常専任教員が担当すべき主要科目を多数非常勤担当ないし休講としておくことはさすがに限界で、ある程度の教員の補充も始まっていますが、これらの補充された教員も当然、年齢が上がっていきます。しかし、年齢に応じて給与を上げていくことは現状を前提とすれば困難であるということになってしまうのです。

 今のところ固有職員の定着率が低い(この小さな大学で毎年毎年数十人の新規採用が行われているということは、それに見合う数の人間が辞めているということでしょう)と思われることから、法人化後8年、固有職員採用開始後7年が経過しているにもかかわらず平均年齢は7年分上昇しているわけではなさそうであり、その意味で固有職員の平均人件費はあまり変わっていないと思われますが、かといって、まさか固有職員が数年で辞めていき入れ替わることを前提に制度設計と運用をしているわけではない、そう信じたいところです。

 しかし、繰り返しますが人件費比率53%を前提とするなら現在の教職員全員が年齢に合わせて給与が上昇していくということは非現実的です(後述しますが、分母の数値が増えていくのなら話はまた別ですが)。 因みに人件費比率53%という数値がどこから出てきたものかは、説明がありませんでしたので分かりません。

 ただし、私立大学の各種財務データを掲載している「今日の私学財政」での近年の私立大学全体の平均値が確かこのあたりだったと思います。あいにく手元にも本学の図書館にも「今日の私学財政」はないのですが、例えば平成21年8月24日の中央教育審議会大学分科会第4回大学規模・大学経営部会の配布資料で紹介されている平成20年度の「今日の私学財政」の速報値に基づく数値だと、私立大学全体での消費支出に占める人件費の割合は54.1%となっています。本学の法人化時の経緯を考えると私学の数値を基準にしているということは充分ありえそうではあります。 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/028/siryo/1284251.htm

 もし私立大学の人件費比率を基準に設定しているのだとすると、学生・教員比、つまり教員1人当たりの学生数が国公立大より大幅に多い私学の数値を公立大学にそのまま適用しようとするのですから、相当大変な話です。確かに法人化後の本学の一部の分野における学生・教員比は教員の大量流出と不補充により私学並みとなっていますが、それでも医学や理学系などの多数の教員を抱える分野では国公立基準の教員数を維持していると思われます。これを、それ以外の教員部門と職員部門でカバーするというのは、現在の条件下では一時的に可能であっても長期的には困難で、特に医学部はどこの大学であれ大量の教員を必要とするものであり、大半は医学部を持たない私学の平均値と比較するのは無理な話です。そうなると選択肢は、基本的に、①全学の教職員数を私学並に削減する、②教職員の平均給与をこれ以上は上げない、③53%という基準を変更する、④これらの手段を組み合わせる、くらいしかありません。職員に関しては、大学職員としての専門性を向上させれば現状より大幅に少ない人員でも運営可能とは思われますが、経営者、管理職の多くが横浜市のOB・派遣で、固有職員の能力育成も不十分な現状では夢物語です。

 実はもう一つ、分母、つまり経常収益の数値を増やせば人件費比率も下がるという別の方法もあります。しかし、国立大学の比でない運営交付金の大幅削減(法人化初年度の平成17年度の運営交付金収益約130億円が6年後の平成23年度には約93億円と30%近い減)が行われている本学の状況下ではこれも非常に困難です。 附属病院に関しては、経営努力によると思われる収入増が達成(それも限界があり、現にスタッフに関しては限界以上の削減を行った反動と思われる大幅増員を平成23年度に行っています。施設設備の適切な更新が行われているのかも気になります)されていますが、附属病院部門を除いた大学部門に関しては、学費の大幅な値上げか入学定員増あたりが基本的な対応策になります。前者は市議会の承認が必要で、かつ学費を値上げするとその分運営交付金を削減する仕組みになっていたと思いますので、大学の立場からすれば意味がありません。それに私学と同じかそれ以上の授業料の公立大学というのは、公立大としての存在意義の一つを否定することになるのではないでしょうか。また、定員増に関しては、金沢八景の本部キャンパスにおける校舎面積、教室構成の制約がきつく、現在でも時間割編成に四苦八苦している状況ですので、これまたハード面の制約からも非現実的です。今年度から、横浜市が所有したままの校舎の改築、耐震改修が始まりましたが、校舎面積は増やさないことが前提と聞いていますので、どうすることも出来ません。医学部を中心に産学連携等の外部資金の受入増という手段もあり、実際成果を上げてもいるようですが、一定以上に当てに出来る話ではありませんし、それはそれでスタッフ増が必要で人件費を押し上げることにもなります。


 長々と人件費比率について書いてしまいましたが、その他の点では、固有職員が退職した場合、その穴埋めは固有職員で行うことが原則であることが確認できたことは成果であると言えます。ただし、この点に関しては、既に組合の職場集会で「実情と違う」という声も上がっており、組合も実態を充分に把握できていません。今後、実態とこの原則が乖離し運営に問題が生じていることが明らかになった部署については改善を求めていくことを考えていますので、問題の発生している部署の方は組合まで情報をお寄せ下さい。

(続く)

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