2011年6月22日水曜日

新設学部の動向と黒船の襲来?

この半年ほど色々な意味で余裕がありません。組合の活動も、少なくとも公開版の方のニュースには書けない、書きにくい問題に追われています。

 最近の話題としては、学内の方は既にご承知のように、先月、横浜市大に関する強烈な告発本『キャリア妨害』が出版されました。書評でも書こうかと思ったのですが、同じように民間から(他大学経由ですが)、それも同時期に市大に移ってきて似たような経験を山のように味わった身としては、自分の経験だけでお腹一杯でこれ以上は勘弁してくれという感じで、半分ほど読んだところでギブアップしてしまいました。そういうわけで、ご関心の向きには、本学教員組合のニュースか、アマゾンのカスタマーレビューをご参照ください。

 では、そろそろ本題に入りたいと思います。

 今春も多くの大学、学部、学科が新設されました。また、来年度新設予定の大学等の認可申請や届け出も発表されています。さて、では以下のうち、実際に今春開設した、あるいは来春開設が予定されている学部はどれでしょうか?

現代食文化学部
スポーツプロモーション学部
モチベーション行動科学部
ホワイト・カラー学部
英語キャリア学部

 関心のある方には、詳細はご自分で検索していただくとして、実は一つを除いて、残りは総て実際に開設されたか、来年度開設が予定されている学部です(残り一つは、出来が良すぎて逆に笑えないエープリルフールネタでした)。新しいニーズに応えようとしているのか、生き残りをかけてニッチを狙っているのか、いずれにせよ、これらの学部を開設した、あるいはしようとしている大学が真剣な検討の末に決定したものであることは間違いないでしょう。

 ただ、こういった学部名を目にすると、「学士教育課程段階」における「学部という単位」での教育の目的や教育課程の在り方についての認識が恐ろしく多様化していることを改めて思い知らされると同時に、それが予定調和的に「大学の機能別分化」という言葉できれいに収斂していくものなのか、先行きの不透明さを感じてしまいます。単に、護送船団方式はよろしくないから止める、あるいはこれまでの顧客層が減少した、あるいは社会からの要求が変化した、あるいは国際的な競争を本格的に迫られるようになった、あるいは国立・私学間の格差が云々等々、いずれか一つであれば、問題はそうややこしいものではなかったのかもしれません。しかし、場合によっては相矛盾するような多数の問題が一度に押し寄せた結果、問題はゴルディアスの結び目と化し、その一つの現れとして、このような新しい学部学科が次々と生み出されることとなりました。

 そして、先月、アレキサンダーの剣となるかどうかはともかくとして、また新たな動きがありました。

 学生募集を停止して、このまま消えていくと思われた聖トマス大学(旧英知大学)が、アメリカに本拠を置く国際的な大学支援企業「ローリエイト・エデュケーション」の傘下に入って、文部科学省に新たな学部の設置を申請しました。ただし、現段階では、新学部の名称(国際教養学部、健康科学部)しか分からず、大学のホームページにもそれ以上の情報はありません。わずかに、日経ビジネスの最新号(6月20日号)にローリエイトから就任した聖トマス大学運営法人の理事長のインタビューが掲載されている位です。

 ご存知のように、かつてバブル期に進出してきたアメリカの大学の日本校の大半が、満足に学生を集められないままに撤退していきました。管見の限りでは、どうもアメリカの本校と比べて教育課程や教員が?という例も多かったようにも思いますが、一般的には不振の原因としてよく指摘されるのは、そもそも日本の学校教育法上の大学としての認可を受けていないため、国内では大学として扱われない存在だったという点です。そういえば、アメリカ大学日本校の数少ない生き残りであるテンプル大学ジャパンキャンパスが本学の前学長を迎え入れたのは、日本の学校教育法上の大学としての認可を得るための申請を担当させるためだった、とどこかで聞いたことがあります。真偽のほどは不明ですが。

 今回のローリエイトの動きがどこまで本腰を入れたものなのかは、まだ良く分かりません。しかし、経営不振の私学の買収や経営参加という新しい形での国内進出が、今後、他にも出てくる可能性はあるでしょう。国立大学法人や公立大学法人も対象になるかもしれません。ともあれ、この方法を使えば、とりあえずバブル期のアメリカ大学日本校のような意味での問題点―日本国内では法的には大学として扱われない―はクリアできます。後は、教育プログラムと教員がどうか、学費がどの程度になるかといったあたりが当面の問題でしょうか。学部名称だけでは国内大学の流行と選ぶ所のない聖トマス大のケースですが、どういったプログラムが、どのような教員によって担われるのか、そしてそれが日本人の受験生、父母にどう受け止められるのか、注視する必要がありそうです。
(菊池 芳明)

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