2022年11月11日金曜日

大学設置基準改正 ― 教育研究実施組織、今後の影響 ―(前編)

 前回8月11日付の組合ニュースで設置基準改正案の教育研究実施組織のつじつまの合わない部分についてあれこれと推測してみましたが、蓋を開けてみると全部はずれでした。

 「従前の教員組織等が果たしてきた役割や必要性は変わらず、教員や事務職員等の役割や連携等について、学内の規程等に明記すること等により、引き続き担保されることが求められる」「必ずしも今回新たに規定した『教育研究実施組織』に対応する新たな組織を設けたり、新たに人員を配置したりすることを求めるものではない」(大学設置基準等の一部を改正する省令等の公布について(通知))などという説明が出てくるとは予想していませんでした。

 旧設置基準第3条および第7条の「教員組織」をわざわざ上書きまでして消し、代わって「教育研究実施組織」を書き入れたにもかかわらず、「従来の教員組織が果たしてきた役割や必要性は変わらない」、つまり学部教授会の位置づけは変わらない、そして「『教育研究実施組織』に対応する新たな組織を設けることは求めない」、つまり「組織」と法令に明記したにもかかわらず「組織」を作る必要はないというのですから、では、一体何のために改正を行ったのかということになります。

 あからさまに何か裏面の事情が存在するのだろうと疑わせる展開ですが、その点につきネット上でかつ無料という範囲での観測では、北大の光本先生がインタビュー記事だったかで今回の改正設置基準と教育再生実行会議の後継である教育未来創造会議の「我が国の未来をけん引する大学等と社会の在り方について(第一次提言)」(2022年5月10日)との関連性を指摘していて、それが正解なのだろうと思われます。光本先生が指摘されたのは、第一次提言の「現在35%の自然科学系専攻学生割合をOECD諸国最高の50%程度に」とする目標との関連性だったと思うのですが(あいにく当該記事は既に削除されたようでネット上には見当たらず、保存もしておかなかったのでうろ覚えの記憶になります)、それは当然スケジュール面にも影響するはずで、実際、「我が国の未来をけん引する大学等と社会の在り方について(第一次提言)」のページを見ると9月になってから工程表が追加されており、そこでは「学修者本位の観点から、最低基準性を担保した上で大学の多様で先導性・先進性のある教育研究活動を促すため、教員や校地・校舎等の規定も含めた大学設置基準等の改正を行う。【2022 年末まで】」とあります。

 もう少し具体的に言うと、わずか10年で大学生に占める自然科学系の学生の比率を15%程度引き上げるというかなり無茶な目標であり、その実現のために①専任教員の学内でのいわば使い廻しや非常勤教員、企業等の実務家の在職のままでの活用などがより容易となる基幹教員制度や②授業科目の自ら開設の原則、単位互換等の60単位上限、遠隔授業の60単位上限、連携開設科目に係る30単位上限、校地・校舎面積基準など広い範囲で設置基準の規定の一部または全部の免除を受けられるという特例制度の活用によってより低コスト、短期間での自然科学系学部学科の設置や定員増などを容易とするため、設置基準の改正を急がされた、という経緯だと思われます。なお、いくつかの情報をつなぎ合わせるともともとの改正設置基準の施行の予定は2024年4月だった可能性が高そうです。これであれば大学分科会における検討期間は1年~1年半は取れたはずですので実質的な議論や修正もできたはずです。

 ここでいわば割を食ったのが教育研究実施組織や旧基準での学生部、事務局に関わる変更部分です。前述の基幹教員制度や特例措置については、大学分科会の質保証システム部会における検討(2021年6月~2022年3月)を経て3月に「新たな時代を見据えた質保証システムの改善・充実について」(審議まとめ)として取りまとめられており、大学分科会での実質的な議論は飛ばしたとしてもそれなりの検討は既にしました、という主張は出来ないこともないのに対して、教育研究実施組織をはじめとする組織に関わる部分については「新たな時代を見据えた質保証システムの改善・充実について」(審議まとめ)でも「現在は大学設置基準の様々な箇所に分散して規定されている教員や事務職員、各種組織に関する規定を一体的に再整理する。」程度であり、内容的にも教育の質保証よりは「大学ガバナンス改革」の系譜に位置づけるべきもので、改めて大学分科会での議論、検討が必要な問題であったはずです。しかし実際には5月の分科会に省令案骨子案の提示、次回6月に改正省令案提示、次の9月の分科会ではもう改正の諮問と議決、しかもいずれも他の議題と一緒に審議というスケジュールで、これでは実質的な審議など望むべくもありません。改正された設置基準と通知等の解説部分に不審が生じるのは当然で、(相変わらずの官邸優位の状況ではあるので、そちらの意向や政治的状況にも影響されそうですが)教育研究実施組織については第2幕が数年内にあるかもしれません。

(菊池 芳明)
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