2013年9月6日金曜日

大学運営交付金に関する横浜市長への要求と解説

 8月28日、職員組合の上部団体である横浜市従業員労働組合(横浜市従)から横浜市長に対して来年度予算等に関する要求書が提出されました。大学に関しては、昨年度までとほぼ同様の内容ではありますが、記述を修正、4つの問題点に整理・集約しました。具体的には以下の通りです。 

横浜市従業員労働組合2014年度予算要求

〈大学〉

 市立大学においては、①第1期、第2期の中期計画開始時及び中期計画期間全体での大幅な交付金の削減、②第1期中期計画期間における、ほぼ毎年の交付金の予定額からの大幅削減、③各年度予算の市OB・市派遣幹部職員による執行段階での使用の抑制、④大学の教育研究活動の特質について十分な理解を持たない市OB・市派遣幹部職員による、実際のニーズと必ずしも適合しない年度予算編成など、不安定かつ縮小的な大学運営と適切な資源配分の不足により、教育研究活動に大きなダメージを受けている。はるかに少額の削減しか受けていない国立大学においてすら、法人化以降、教育研究への負の影響が出ていることがマクロデータで確認されつつあり、市大の教育研究の向上を真に望むのであれば、①運営交付金の削減に歯止めをかけ、②毎年の交付金額も安定させると共に、③執行段階での削減を大学の名で市OB・市派遣幹部職員が行うようなやり方を改め、④現場の教員・固有職員の声を反映させた適切な予算編成を行うこと。


 解説

①:平成17年度の法人化以前における市から大学への経費投入については、大学のHPにはデータは一切残っていません。横浜市の方には平成14年度以降の予算が残っているので(http://www.city.yokohama.lg.jp/zaisei/org/zaisei/yosan/)、そちらを参照すると、平成14年度が大学の自己財源(授業料収入、病院収入等)を除いた市からの繰入金が242億8千万円、平成15年度が262億1千万円、平成16年度が250億9千8百万円となっています。これに対して、法人化された平成17年度の横浜市から大学への運営交付金は142億6百万円と前年度に比べ一気に100億以上円、率にして40%以上(!)減額されています(以下、法人化以降のデータは横浜市立大学「財務情報」http://www.yokohama-cu.ac.jp/univ/corp/finance/finance.html の各年度決算報告書等に基づくものです)。

 また、平成17年度から平成22年度までの第1期中期計画期間全体での運営交付金の予定総額は781億8千6百万円、平均すると1年当たり約130億円で、平成14年度から16年度までの繰入金の平均、年間約252億円に比べ120億以上の減となっています。

 さらに平成23年度から始まっている第2期中期計画について見ると、平成23年度から平成28年度までの6年間での運営交付金の予定総額は677億2千3百万円、第1期中期計画に比べ総額で約100億円、率にして約15%の減となっています。

 国立大学法人が毎年約1%という、横浜市大に比べれば無いに等しいとも言える運営交付金の減額で苦しんでいることを考えると、この削減がいかに凄まじいものか判ります。

 運営交付金の削減による影響に関して一例を挙げると、研究面についての話になりますが、国立大学法人を中心とした運営交付金の削減と「選択と集中」の促進が日本の高等教育機関の競争力に如何に深刻な影響を与えているかという点について、元三重大学学長で現鈴鹿医療科学大学学長の豊田長康氏が、ブログ等で量的データに基づき繰り返し指摘を行っています(http://blog.goo.ne.jp/toyodang/e/fbfd543bc72e5bc7815f77174bb39529)。

 以上の結果、平成23年度で見ると横浜市立大学の総収入に占める横浜市からの運営交付金の割合は約18%にまで低下しています。マスプロ教育を行わないと経営的に存続が厳しい日本の私立大学の経常経費に占める国の補助金の平均割合が約10%(http://www.shigaku.go.jp/s_kouhujoukyou.htm)、やや古いデータですが、国立大学のうち医学部を有する中規模大学群の経常収入に占める運営交付金の割合が平成18年度で30%以上(http://www.nistep.go.jp/achiev/ftx/jpn/mat150j/idx150j.html)、 日本の大学改革のモデルとして持ち出されることも多いカリフォルニア大学の経常収入に占める州政府の交付金の割合が2008-2009年度で約22%(http://www.zam.go.jp/n00/n000i007.htm)などとなっています。

②:上記のように、中期計画段階での交付予定総額の削減だけでも大変なものなのですが、実際には、各年度の横浜市の予算編成段階で、中期計画で予定されている交付予定金額からさらに削減が行われています。第1期中期計画に関しては、横浜市財政当局の横浜市従に対する予算説明の場で「第1期中期計画期間の各年度の市からの運営交付金は毎年均等に交付される」という説明があり、これは計算すると毎年約130億円の交付があることを意味するはずですが、実際には、平成17年度が約142億円、18年度が約129億円、19年度約120億円、20年度約123億円、21年度約123億円、22年度約113億円と平成17年度を除き予定額を下回り、特に最終年度である平成22年度においては予定額より17億円も下回る交付額となっています。第1期中期計画期間の総額では、予定交付額781億8千6百万円に対して実際の交付金の総額は749億1千9百万円、32億6千7百万円が削減されています。因みに、第2期中期計画に関しても同様に毎年の交付金が均等に交付されるのか横浜市財政当局に対して確認を行いましたが、最終的にこちらは回答が得られませんでした。

③:また、当初交付予定額から縮小された各年度の予算自体もそのまま執行されるわけでなく、理事長、事務局長、財務、経理の管理職が横浜市OBあるいは横浜市派遣職員という状況下、現場の創意工夫によるのではなく、地方行政の専門家ではあっても大学経営は門外漢であるはずの横浜市OBおよび横浜市派遣管理職による上からの指示、判断により執行が抑制されています。結果として毎年40億から60億程度の利益剰余金が発生し、 平成17年度から23年度までの利益剰余金の総額は325億円に達します。そのうちの少なからぬ額が、法人化時に大学の資産とはされず横浜市が所有したままのはずの校舎の立替え、耐震改修に投じられるようです。

④:さらに、横浜市立大学においては教授会の権限が大幅に抑制(学生の身分に関する事項のみ)され、予算も含め経営者に大幅に権限が集中した経営形態が取られています。もちろん経営者自身が細かい問題まで自身で決定や執行を行うわけではないので、実際には経営者および事務局幹部に権限が集中しているわけですが、その大半は地方行政の専門家ではあっても大学経営は門外漢であるはずの横浜市OBおよび横浜市派遣管理職です。教育研究に関して、何が重要なのか、何が節約できるのか等の判断に必要な知識、経験を欠いた人達にただでさえ減っていく予算の編成と執行の実権が集中しているため、教育研究の現場に大きな問題が発生しています。



 このように、横浜市からの運営交付金の問題を始めとして、横浜市大の予算とその執行には4段階に渡る巨大な問題が存在しています。教育も研究も基本的に単年度では完結しない営為であり、例えば学士を送り出すまでの教育は4年単位、研究もあるテーマの研究が1年で終わるということはまずありません。年を追うごとに厳しくはなっていくだろうがそれがどの程度かは判らない、さらには減少する経営資源の範囲内でせめて合理的である保障もない経営環境は、単年度で完結しない教育研究という営為を疲弊させずにはいられません。そして、大学は教育研究機関であり、その経営とはつまるところ教育研究をどうするかということに他ならず、教育研究が上手く行っていないということは大学経営が上手く行っていないということです。市長へ要求書を出せば簡単に解決するような問題ではありませんが、今後も取り組みを続けていきます。

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