2010年6月9日水曜日

最近の高等教育関係学会における大学職員論と公立大学職員

 現在、日本の高等教育に関する研究の中心となっている学会は、日本高等教育学会と大学教育学会ですが、今年度の両学会の大会が先日、相次いで開催されました。両学会とも学会員は教員が大半で職員は少数ですが、近年、大学職員の重要性の増大を反映して職員に関する部会が開催されることが多くなっています。今年度も双方の学会で職員に関する部会及びラウンドテーブルが開催されました。このうち大学教育学会の職員に関するラウンドテーブルに参加してきたので、少し紹介しておきたいと思います。

 近年の高等教育関係学会での大学職員論は、18歳人口の減少等に起因する外部環境の悪化や大学改革への政策的圧力、情報化や国際化への対応などの必要からの業務の高度化・拡大要請への対応として、職員の「高度化」や「専門化」、さらには地位の向上を、主としてアメリカの大学における(基本的に教育や大学経営に関する修士以上の専門教育を受けている)専門的職員の在り方を参照基準として議論するという形で展開されてきました。

 今回のラウンドテーブルも基本的にそれらの延長上にあるもので、現在、大学教育学会が行っているSDに関するアンケートについての途中経過、アメリカの専門的大学職員に関する紹介、日本の大学職員の専門性に関する調査・考察などが報告されました。

 これに対して東北大学の羽田教授から、関連分野の研究蓄積に基づかない大学職員論は、専門性の上昇、それによる地位の上昇という思考の隘路に陥っているのではないか、という指摘がありました。そして、①前提としてまず大学における権限配分の再編をどうするかという議論が必要で、それを受けてどのような職員を育成するかが明らかになる、②これまでのオールラウンド型からプロフェッショナル型職員への移行条件は何なのか、③職員の専門職化は供給要因なのか需要要因なのか、④今後続く職員の人件費削減の方向性の中で職員の専門職化を進めることは可能なのか、という問題提起がなされました。

 もうひとつ、司会から、公立大学は特殊な問題を抱えているからという趣旨の発言があり、それを受けて複数の公立大学関係者から、プロパー職員の地位の問題や大学の様々な問題に関して自治体出向職員の理解を得ることの困難さなどについての発言がありました。ここに端的に現れているように、一般的に日本の大学職員論が(それが適切かどうかは別として)教員との関係を軸として展開されているのに対し、大学数で1割ほどを占める公立大学に関してのみ、職員論は自治体職員といういわば大学の外部にある要因との関係を軸として展開されるという特殊な様相を示しています。その意味では、公立大学職員論は上記のような一般的な(あるいは国立大学・私立大学における)大学職員論とは基本的な条件で異なっており、それをそのまま援用するだけでは不十分で、一般的な大学職員論とは別に(あるいは並行して)、公立大学関係者の手で独自に検討が行われる必要があると言えるかもしれません。

★日本高等教育学会 

★大学教育学会

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